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2008-06-30 00:00
米中の思惑と「日本の行方」
佐島直子
専修大学教授
眼を蔽いたくなるような悲惨で不条理な事件や、胸がつぶれるほど衝撃的な被災地の惨状や、鳥肌が立つように恐ろしい医療現場の崩壊や、聞いているだけで恥ずかしくなるような無責任な政治家の言動や、あきれてものも言えなくなるような愚かで滑稽な役人の醜態や、それやこれやの大量のニュースの影に、静かに進行する大国間の外交的駆け引きが隠れてしまう。ヒステリックな日本のマス・メディアは故意か偶然か「日本人」を外交音痴に追いやるばかりで、無整序で精査されない海外情報がアナーキーなインターネット上にあふれ、噂話や流言蜚語の狭間にひっそりと「大国の意図」が紛れ込んでも目立たない。ごくごく限られた一握りの人々が、それと気づき、歯噛みしているが、どうすることもできない。
北京オリンピックを目前にして危機的状況にある国家の威信回復に躍起な「中国」とイラク戦争の混迷から目をそらせる外交的成果の達成を急ぐ「米国」の「思惑」が、「北朝鮮」でぴたりと一致した。加えて、保身と転進準備を迫られているライス国務長官やヒル国務次官補などの側近が、失点をかかえたままで政権内でのキャリアを終えたくないと考えたとしても不思議ではない。彼らの下心をくすぐることぐらい、手練手管に長けた中国当局にはたやすいことだったろう。そんな兆候はとっくのとうに見え隠れしていたのだ。
北朝鮮は6月26日、6カ国協議合意に基づく核計画申告書を議長国の「中国」に提出、ブッシュ米大統領は同日、見返り措置として、北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除を決定、議会に通告したのである。45日後に発効し、長く対立してきた米朝は関係正常化に向けて大きく前進する転機を迎えた。大国間の「思惑」など所詮こんなものである。決して北朝鮮のシナリオ通りに「ことが進んだ」結果ではない。だから日本もあわてることはない。
北朝鮮の核計画申告書は不十分なものだし、北朝鮮の核放棄には程遠いものだ。北朝鮮のテロ支援国家指定解除発効までには、まだまだ紆余曲折が予想される。現にブッシュ大統領は「日本の拉致を忘れない」と釘をさしてくれた。成果をあせっているのは、中国であり、米国なのだ。日本ではない。この一見「ピンチ」と見える状況を、「チャンス」に変え、しぶとく粘り強く「米中の思惑」にタックルしていけばよいのだ。
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