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2008-06-20 00:00
北方領土の環境悪化が提起する領土問題解決の緊急性
茂田宏
元在イスラエル大使
6月9日に、知床半島や北方領土の環境問題を話し合うシンポジウム「知床・流水が育む生態系:豊饒の海ではいま何が・・」があった。第1部で東京農大の小林講師がアザラシの生態変化の報告をしたあと、ディスカションとなり、児玉泰子さんの司会で、小池百合子さん、野口健さん、本間浩昭さんなどが参加して行われた。
北方領土の自然環境は、これまで比較的よく保存されてきた。ロシアが経済困難で開発をする力がなかったことも一因である。しかし石油価格の高騰でロシアに経済的余裕ができ、昨年から約900億円をつぎ込んで、「クリル列島社会経済発展計画」が実施されている。北方領土周辺海域は漁業資源に恵まれた海域であったが、最近では、スケソウダラ、かに、うに、なまこなどが乱獲で減少している。流氷が地球上でもっとも南に到達する地域として、北方領土とその周辺はアザラシ、ラッコ、エトピリカなど貴重な動物の生息地でもある。ロシアが進めている開発は、これらの野生動物の生態系の破壊につながり、これが知床など北海道にも影響を与える惧れがある。更にサハリンの石油・ガス開発で石油の流出が起これば、氷の海での石油汚染はその除去が難しく、北方領土を含むオホーツク海の環境に多大の影響があるであろう。
北方領土は日本固有の領土である。ロシアが戦後、実効支配し、その返還交渉は行き詰っている。しかし、北方領土の環境を守るための措置を、日ロ間で話し合うことは必要である。ロシアはサハリン開発に環境保全規則違反を申し立て、操業を停止させた。その後、ガスプロムがこのプロジェクトの支配的シェアーを獲得し、開発は続いているが、ロシアの環境への配慮のレベルは全般的には日本よりずっと低い。色丹島の穴マ湾はヘドロで埋まり、近くに行くと悪臭が漂い、魚もいないという。我が領土の環境を破壊されるのは看過できない。環境については、ロシアよりの排出権購入、省エネ技術の提供など、日露間で取引がありうるが、その一環として北方領土の環境保全を、日本側として要求していくべきであろう。
この環境問題を重視する観点から、世界自然遺産になっている知床を更に拡大して、北方領土にウルップ島を加えた地域を世界自然遺産とする構想を推進している人がいる。善意の人々であるが、これはロシアの北方領土統治を正当化することにつながりかねない。ユネスコでの決定でロシアの実効支配を前提とする長期的措置をとることは、領土問題についての日本の立場を傷つけることになる。北方領土問題の解決を急ぐことが、北の海の環境保全や資源保全のためにも必要になってきている。日本の対ロ政策の中で北方領土の優先順位を高めるべきであろう。
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