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2008-06-04 00:00
起死回生にはほど遠い「後期高齢者」自民案
杉浦正章
政治評論家
後期高齢者医療制度をめぐる与野党の攻防が白熱化している。「制度撤廃」対「制度見直し」路線の激突で、どちらも一長一短がある。政府・与党は懸命の巻き返しを図るが、制度の将来展望は保険料引き上げが不可避とみられる上に、“姥捨制度”といういわば高齢者の神経逆なで型感情論はクリアできていない。当面のび縫策では、自民党の目指す起死回生策にはほど遠い様相だ。高齢者医療廃止法案の参院審議入りで、まず冒頭から厚労相・舛添要一は強烈なカウンターパンチを食らった。舛添は「国民皆保険を大きなダムに例えると、一番決壊しやすいところが高齢者の保険」と制度維持の必要を強調した。これに対して、いまや国会論戦におけるオピニオン・メーカーとなった民主党参院議員の大塚公平が、「ダムの決壊しやすいところを別枠としたため、強いところで支えるという仕組みが弱まった」と切り返した。最近の国会論戦で、これほど見事な切り返しを知らない。制度の本質的な欠陥を見事についている。
このやりとりが象徴するように、後期高齢者医療制度をめぐる与野党激突の核心は、「制度見直し」の自民党案に説得力があるかどうかだ。自民党案は(1)低所得者層に対して、今年度だけは470万人、来年度以降は270万人を対象に、保険料負担を9割削減、(2)中所得者層90万人を対象に、今年度5割軽減、である。後期高齢者医療制度の対象者約1300万人のうち、来年度以降は360万人が軽減されることになる。加えて厚労省は調査の結果、7割の保険料負担が以前より軽くなっているとしている。しかし、政府・与党は肝心のポイントをあえて避けて、「制度見直し」を強調している。それは今後増加の一途をたどる75歳以上の年齢層を区切った別枠制度が、将来の保険料負担増なしに維持できるかどうかと言う問題だ。2倍のスピードで保険料負担を引き上げることが前提の制度である。バナナのたたき売りのような当初の負担減が、ほとぼりの冷めたころに美術品オークションのように引き上げられていくことは、目に見えている。消費税にフタをする限り、引き上げなしには成り立たない制度なのである。
加えて、本質的な制度の欠陥は、世代囲い込みのいわゆる姥捨制度にあることだ。言い尽くされているが、老後の平穏を期待して、払い続けたはずの保険料を、ここに来て高齢者から制度を創設して徴収し直すという「冷酷無比の新制度」のイメージは、いくら自民党が「制度見直し」策を打ち出しても、ぬぐい去ることはできまい。野党が消費税導入という財源無視の「制度撤廃」法案を出しているが、自民党の「制度見直し」策では、その欠陥を打ち負かすことはできまい。その点、自民党幹部にも迷いが出てきている。選対委員長・古賀誠が“凍結論”を言い始めた。「安心感、信頼感のある制度に改善すべきだ、と議論している間は、凍結するぐらいの勇気があってもいいのではないか。負担をお願いするときに大切なのは、心の温かさだ」と発言している。幹部から出た凍結論は初めてだ。制度を維持していては、総選挙大敗に直結するという構図が、ようやく分かってきたのだろう。
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