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2008-04-29 00:00
成長経済学の発展と技術進歩
池尾愛子
早稲田大学教授・デューク大学客員研究員
4月24日から27日まで、アメリカのデューク大学において国際会議「ロバート・ソローと成長経済学の発展」が開催された。参加者は、「新古典派成長モデル」と呼ばれる安定成長を表現するシンプルなモデルを最初に提示したソロー氏本人を含む経済学者、元国際機関エコノミスト、経済史家、方法論家、経済学史家等であり、アメリカ、ブラジル、カナダ、イギリス、オランダ、スイス、ポルトガル、ベルギー、日本の出身であった。1980年代後半から注目されるようになった「内生的成長理論」のおかげで、当初は文献リストに入っていなかった、ソロー氏の1957年論文などにも光があたるようになり、さらに実証研究と併せる形で、成長経済学の歴史が語られるようになったのである。
会議では、1950-60年代の成長経済学が冷戦の産物であること、つまりアメリカ政府が成長経済学研究を奨励していたことも、参加したジャーナリストによって語られた。実際、アメリカにいるトップ経済学者たちが足並みを揃えて成長経済学やその延長にある開発(発展)経済学の研究に参加したばかりではなく、そうした研究を推進・奨励する原動力にもなっていた。その目標は、日本でも知られているように、不安定性の目立つハロッド・ドーマー・モデルと呼ばれる経済成長モデルを克服して、安定成長を表現する代替的諸モデルを構築することであった。
それでも、会議論文や関連する原論文を読むと、成長経済学には理論、思想、実証、認識論に及ぶ知的考察が満ち溢れていて、驚くほど楽しい。技術進歩といえば、J・A・シュンペーターは忘れてはならない存在であり、収穫逓増(生産規模の拡大とともに単位当りの生産費用が逓減し、収穫・収益が逓増する現象)を考察するときには、A・スミス、A・マーシャル、A・ヤングの古典からの抜粋が必読文献に入る。ダイナミックに動く経済を考察して様々な方法で研究し、セミナーなどで議論することを楽しいと感じる経済学者は多く、政府の推進策は経済学者たちの内発的な研究志向とぴったり合致した、というべきである。経済学者になりたいと思う人は、必ず成長経済学を勉強すべきである。
経済成長についての最近の研究方法は、1国に焦点をおいた長期的な経済進歩をみる研究だけではなく、複数の国にまたがるクロスカントリー研究が(制度の差異への考慮には差があるようだが)行われるようになってきている。会議での議論をふくらませると、1980年代からの東アジア諸経済の成長について、資本や労働の増加だけでは説明しきれない経済成長の要因に関して、(海外直接投資などによる、外生的な)技術進歩なのか、政府が行う成長政策(マクロ経済政策)なのかが論争テーマになり、研究も進んでいた。そうした折、1997年に東アジア通貨・金融危機が起こり、その最大原因は政府のマクロ経済政策の失敗であることがわかったことになる。
今回の会議からはややそれるが、1970年代末からの日本経済の好調原因が探求された際、アメリカ発信の研究で目立ったものに、「日本的経営」や、日本の市場や消費者行動の特殊性、通産省や政府の役割などを強調するものがあった。いま振り返ると、まるで「技術進歩」以外の因子を探す研究が奨励されていたかのように見える。日本とアメリカなど各国との間で貿易摩擦が深刻になったことを考慮しても、経済成長や好調な経済の原因を探るときに、技術進歩という変数を予め説明因子から落とすことにしたとすれば、それは余りにも恣意的であると言わざるを得ない。
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