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2008-04-11 00:00
岡田克哉政権誕生の奇策は、奇策に非ず
伊奈 久喜
新聞記者
春秋の筆法をもってすれば、福田政権をとりまく現在の政治停滞には、少なくともふたりの「犯人」がいる。偽メール事件で2006年に辞職した永田寿康前衆院議員、もうひとりはやはり2006年、こちらは村上ファンドとの関係が批判されながら辞職しなかった福井俊彦前日銀総裁である。永田問題がなければ、前原誠司民主党代表の辞任はなく、小沢一郎代表はなかった。仮に参院が野党多数になっても、小沢氏のような対決的な国会運営はしなかったろう。福井氏が、あの時点で辞任していれば、武藤敏郎副総裁は順当に昇格していた。当時の参院は、与党が多数だから同意人事でもめることもなかった。福田首相を悩ます日銀問題は、2008年時点では存在しなかった。
政治の世界では起こりえないことが起こる。起これば、それにもっともらしい理屈をつける。上と同じく、論理としては、はなはだトリッキーだが、いわゆる衆参ねじれを2年後、5年後の参院選挙を待たずに、瞬時にして解消するシナリオをご紹介する。福田首相が辞任し、衆院における後任の首相指名選挙で、自民党、公明党が勝手に民主党の岡田克也元代表と名前を書けばいい。参院では、当然小沢一郎氏が指名されるが、憲法の規定に従い、岡田氏が首相になる。無論、勝手に選ばれた岡田氏は辞退する権利も自由もある。
しかし本当に辞退できるだろうか。岡田氏が衆院本会議で指名された瞬間、自民、民主両党で反小沢感情を触媒にした政界再編への化学変化が起こる。にもかかわらず辞退すれば、岡田氏の政治生命は絶たれる。化学変化が起こらなければ起こらないで、その場合も岡田氏の政治生命はほぼ絶たれる。自民党にとっては、自分たちが支持する形の岡田政権ができない場合、民主党の有力な首相候補であり、現実に経済界の支持もある、岡田氏の政治生命を奪うことができる。何とばかなシナリオ、と大方の読者は憤慨されるだろう。しかし、1993年夏の衆院選挙で自民党は過半数を失い、細川連立政権が誕生した。米国勤務を終えて帰国し、選挙の直後に福田赳夫元首相にご挨拶にうかがった時、福田氏は「自民党がみんな『武村』と書く手もある」と語っていた。武村とは武村正義氏、かつては福田派にいて、当時は自民党を飛びだし「さきがけ」の代表だった。
後に現実になった自民、社会、さきがけの連立による村山政権の樹立は、実は「武村首相」説の変形に過ぎない。村山政権をつくったエネルギーは、細川、羽田政権を陰で牛耳った小沢氏に対する反感であり、現在の与党および民主党の一部には似た空気がある。例えば、町村信孝、仙谷由人両氏の反小沢感情は、ほぼ同じレベルではないのか。だとすれば、ふたりが岡田首相を支えることだって、必ずしも妄想ではない。村山政権だって、最初はみんな妄想と思ったし、いまもそう思えるのだから。
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