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2008-02-25 00:00
ラッド首相の「謝罪」に思う
佐島直子
専修大学教授
2月9日(土)から16日(土)まで、所与の業務があって豪州研究の専門家3名で豪州に飛び、安全保障関係者とインテンシブな意見交換を行った。本訪豪の成果はいずれ別にとりまとめられることになっているので、ここではふれない。しかし今回の豪州滞在は、永く記憶に残るものとなった。というのも、2月13日に昨秋就任したばかりのケビン・ラッド首相が第42回連邦議会の席上、オーストラリア連邦政府首相として史上初めて、先住民の「盗まれた世代」に対する公式謝罪を行ったからである。「盗まれた世代」とは、豪州政府が1970年代の初めまで、「文明化」の名のもとでアボリジニやトレス海峡諸島民の子供達をその家族やコミュニティー、そして故郷から強制的に引き離す政策を実施し、その結果先住民に数多くの「悲劇」と「文化や伝統の断絶」を生起させたことを指す。
当日朝9時から行われた議会演説を、私はホテルのロビーのテレビで、豪州人らと一緒に生中継で見たのだが、実に感銘深いすばらしい演説であった。私も思わず目頭が熱くなってしまった。とりわけ私の心に染み入ったのは、首相の繰り返した「I am sorry」である。
To the stolen generations, I say the following:
as Prime Minister of Australia, I am sorry.
On behalf of the government of Australia, I am sorry.
On behalf of the parliament of Australia, I am sorry.
I offer you this apology without qualification.
議会が満場一致で支持した公式謝罪文は、「we」を主語にする文章になっているが、少なくともスピーチを生で聞いた人々の心には、ラッド首相自身の「I」を主語としたこの言葉が届いたように思われる。演説終了後、ホテル・ロビーにも拍手が沸いた。ラッド首相は、アボリジニに対する補償金の支払いには応じない方針で、この「歴史的謝罪」がすべての問題の答えとなるわけではない。が、教育や医療、経済面における先住民とその他豪州国民との間の格差是正に、全力で取り組む決意を表明しており、「国民和解」への確実な第一歩を踏み出したことになろう。
一方、首相の後に、野党自由党のブレンダン・ネルソン党首も同様の演説を行ったが、ラッド演説に比べるとおそまつなもので、心がこもらないことこの上なく、「異なった見解もある」と「いわずもがな」の付言をし、後方席の国会議員やアボリジニは次々と背を向けてしまった。結果、19日付のオーストラリアン紙に掲載された世論調査では、ラッド首相の支持率は70%と、調査が現在の形で始まった1987年以降の最高に達した。一方で、ネルソン党首の支持率は9%と最低に落ち込んだ。
とかく「政治家の言葉」は胡散臭いものだか、「本物の言葉」は広く国民に通じたらしい。 「公式謝罪」の前には、「SORRY」と印字されたTシャツが、後には、「THANK YOU」と印字されたTシャツが大売れで、私も買って帰ろうと思ったが売り切れでかなわなかった。ちなみに、ジョン・ハワード前首相は、歴代首相が招待されていた議場に姿を見せず、同時刻にはジョギングをしていたそうである。確かに「異なった見解」もあるのだろう。
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