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2008-01-29 00:00
中国主張の大陸棚論は根拠がないことを報道せよ
湯下博之
杏林大学客員教授
一時「政冷経熱」と言われて、政治面が冷却していた日中関係が、急速かつ大幅に改善していることは、実に喜ばしい。日中両国は、双方にとって長い歴史を通じて重要な国であり、両国の関係が良好であることは、それぞれにとって極めて重要な意味を持つのみならず、周辺諸国からも望まれていることである。昨年の温家宝首相の訪日、福田首相の訪中に続いて、今年は胡錦濤国家主席の来日も予定され、北京オリンピックもあって、日本での中国に対する関心も高まるであろうし、両国間の友好や協力の関係も一層深まることが期待される。
もっとも、両国間に問題がない訳では勿論なく、当面、解決を要する具体的問題として、東シナ海のガス田開発問題があり、胡錦濤国家主席の来日までに解決するための努力が続けられていると報ぜられている。この東シナ海のガス田開発の問題は、日中間の排他的経済水域の境界線の画定問題と直接に絡んだ問題であるが、この境界線問題についての日本での報道ぶりを見ていて、不思議でならないことが一つある。
それは、境界線についての日中双方の主張について、日本側は日中の中間線、中国側は沖縄トラフを主張していると報じて、何の疑念も示されていない点である。排他的経済水域というのは、1982年に採択された国連海洋法条約(発効は1994年)で新たに創設された国際法上の制度で、その内容は、海岸から2百カイリまでの海中および海底(大陸棚であるかどうかは問わない)の資源は、沿岸国が主権的権利を持つというものである。そして、日中間のように、それぞれの海岸から2百カイリの水域をとろうとすると重なってしまう場合には、境界画定は、「衡平な解決を達成するために」「国際法に基づいて合意により行う」ことになっている(同条約第74条)。
海に関する国際法は、第二次世界大戦後、次々と大きな変化が生じ、国連海洋法条約の成立により、ようやく決着を見たという経緯がある。第二次世界大戦時までの国際法では、海岸から3カイリまでの海は沿岸国の領海であるが、その外側は公海として、海底を含め、どの国でも自由に資源を採取してよかった。ところが、大戦後、種々の主張が行われ、種々の制度が設けられるようになった。その一つが大陸棚の制度で、海岸から水深2百メートルまでの海底の地下資源は沿岸国に属することとされ、深さが2百メートルを超えても天然資源の開発を可能とするところまでは大陸棚とされた。
中国が主張しているとされる沖縄トラフ境界線と言うのは、中国の大陸棚が沖縄トラフまで延びているという主張で、排他的経済水域の制度が作られる前の大陸棚の制度の下でなら有効であり得たものである。しかし、国連海洋法条約により排他的経済水域の制度が設けられている現在では、そのような主張はできない。それは、領海の外は公海であるから自由に開発していい筈だという、かつては有効であり得た主張が今や制度が変わったので、できないのと同様である。
このことを周知させずに、沖縄トラフ境界線という中国の主張が現在でも理があるかのように報ずることは、世論をミスリードするものであり、交渉において中国を不当に利し、日本の国益を損ずるものであると思う。
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