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2008-01-28 00:00
鯨を守る羊飼い達
佐島直子
専修大学教授
ある英単語が気になってならない。「シェパード(shepherd)」である。言うまでもなく、羊飼い、牧羊者のことであり、喩えて牧師、指導者の意味で用いられている。大文字の「the Good Shepherd」はどこかの「羊飼い」のニックネームではなく、「イエス・キリスト」その人を指す。その名の教会が多いのは当然である。同名の映画が、ロバート・デ・ニーロ監督で昨年公開されたのも記憶に新しい。映画では、「神のように万能なCIA」という暗喩で用いられており、「CIAにtheがつかないのは、神にはtheが付かないからだ」という台詞もある。つまり、theのついたタイトルは「神ではないヒト」ということなのかもしれないが、含意は複雑だ。類語辞典(Roget’s Thesaurus of English words & phrases)のshepherdの項には、bring together; herdsman; protector; direct; leader; servant; pastorなどが並ぶ。ちなみに、shepherd’s dogは牧羊犬(sheepdog)で、日本のシェパード犬(German shepherd dog)とは同意でない(『ジーニアス英和辞典』及び『オックスフォード現代英英辞典(Oxford Advanced Learner’s Dictionary of Current English)』)。
とまれ、その名を冠した国際的環境保護団体「シー・シェパード」の活動家2名(英国人とオーストラリア人)が日本の調査捕鯨船に乗り込み、拘束された。既に2名はオーストラリア政府に引き渡され、事件としては解決しているが、オーストラリアのマスコミ報道は過激に過ぎたといわざるを得ない。大半はシー:シェパード側の発表を鵜呑みにした無責任なものであった。この点に関し、「捕鯨問題に対して『科学的』対応を」という福島投稿(本欄1月18日付け投稿434号)に全面的に同感である。
権威ある報道機関によって、一般の日本人が鯨食を常としているかのような誤解が広まったり、「鯨」に関する価値観の違いが声高に叫ばれたりすれば、一部の狂信者の犯行ではすまされない。2007年3月、日豪首脳は、「民主主義」という共通の価値観に基づく「安全保障協力に関する共同宣言」を高らかに謳ったが、既に両国とも政権が交代し、共同宣言の実効は新たな局面に入っている。今回の事件で、その深化が阻まれるようなことがあってはならない。羊飼い達が鯨を守るというのもおかしな話だし、ましてや彼らに日豪関係を犯されるいわれはない。それにしても、「野蛮な日本人」という風説をしきりに流布し、世論を煽っているのは如何なる輩なのだろうか?「神様」でないことだけは確かだろう。
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