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2007-12-26 00:00
連載投稿(2)板垣与一と資源ナショナリズム
池尾愛子
早稲田大学教授
『世界の資源と日本経済』巻頭の総論「現代の資源問題」は板垣与一によるもので、資源ナショナリズムに関する議論を含んでいる。彼はまず、「資源概念および資源問題は、科学技術の変遷とともに転移する」と指摘する。次に、近代西欧ナショナリズムと現代非西欧ナショナリズムを区別して、「植民地主義を根ッ子にもつ西欧ナショナリズムと、脱植民地化闘争を魂とする非西欧ナショナリズムとの相関と緊張の中から、1960年を境として南北問題が、70年を境として資源問題がクロース・アップされるようになった」とする。コインの表裏の関係になるが、第2次大戦後植民地から独立した国々は、先進国での衝撃的なまでに「急速な技術革新」により、先進国と後進国との間に存在する経済的不平等とその拡大傾向に直面したのである。そのうえで板垣は、植民地的過去を背負った途上国が資源ナショナリズムをもつことがあり、その顕著な一般的特質として「きわめて根深い心理的・政治的猜疑心、不満感と挫折感という複雑な感情のコンプレックス的反応がある」と指摘した。
板垣は、その感情的反応の理由を、次のように分析した。第1に、宗主国の多国籍企業が資源開発をしたとき資源的富の収奪と流出をもたらしただけで、いわゆる経営資源は土着人社会には伝播しなかった。第2に、途上国は自ら資源を開発したいとの願望を持っても、そのための資本も技術も経営能力もないので、結局外国資本に頼らざるを得ない。そうした心理の深層に挫折感と嫉妬心がうずまき、さらに外資導入に際して不利な条件を強いられると、不満感がいつまでもつきまとうことになる。第3に、外資による資源開発は当該国の経済成長の促進要因となるが、「外資による産業支配に対する怖れ、高度開発技術の独占とそれへの従属、自然的文化的環境破壊の危惧、将来発展計画への支障、総じて経済的国家主権の潜在的侵害など、デメリットをつきつめれば、政治的な国家威信からは望ましいとはいえない」と。
このような資源ナショナリズムの要求に対応して、国連が「天然資源に対する恒久主権」を確認することになったといってよい。板垣は、具体的な解決に向けては、国際協力が必要であるという共通認識が形成されつつあるが、さらに「自国中心の狭いナショナリズムを脱して、トランス・ナショナル」な協力を行うことが不可欠である」と強調した。資源ナショナリズムという言葉を最初に用いたのは、私の知る限り、この経済学者の板垣与一(1908-2003)である。板垣のいう資源ナショナリズムは、技術進歩と経営資源(ノウハウ)の革新に気づいたときに発生する「愛憎半ばする感情」を含んでいるのである。(おわり)
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