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2024-11-11 00:00
トランプ大統領の再任とその地政学的衝撃
西村 六善
元外務省欧亜局長
<トランプ大統領の再登場>
トランプ氏が再度大統領になることが決まった。トランプ大統領の下では国家の優先事項とトランプ氏個人の優先事項が同価値で共存する。いや、寧ろ後者が優先される。それに事実や論理よりも彼の情念とか直感などが優先される。兎に角、復讐心に燃えてホワイトハウスに再度乗り込み、無制限の権力を追求する。伝統的な国際安全保障の観点からすると安定よりも不安定さが強まるほか、予見できないことも多くなる。米国を中心とした自由民主の国家連合(NATOや日米同盟)に亀裂を生む可能性すらある。今後の日米安保体制はどうなるのか。
トランプ氏はヒトラー等の独裁者を憧憬し自分を投影している。多様な利害よりも自分の利害を優先するのだ。自分の利害が不利になるなら民主的ルールを破るし、国家間の合意も破る。事態を無理やり捻じ込んで目的を実現することも想定される。そう云う人間が再び米国の大統領になるが、そもそも以前からそう云う人間であった。トランプ氏は前回大統領時代にNATOの欧州諸国の防衛費が少ないと強い不満を述べ、米国はNATOから手を引くと脅かした。ロシアに欧州諸国を武力で攻撃させると云う暗示すら行った。
要するに、この米国大統領は敵対国ロシアに強弁するのではなく、欧州の同盟国を脅迫した。「米国に守って貰いたいなら自助努力をしろ」と彼らを脅迫した。結局、欧州諸国は防衛費を増やした。しかしその結果として、米欧間で緊張が生まれ、安全保障面での米国の信頼性を傷つけた。
<欧州側は先手を取ってロシアを民主陣営に引き込む>
だから欧州諸国は今回トランプ大統領が再選されたので殊更神経質になっている筈だ。協調できる範囲では米欧の協力は進展するだろう。しかし、同時に欧州諸国はこれまでの経験に学習したのでトランプ大統領から掣肘を受けないように「先手」を打つだろう。あの苦渋を再度味わいたくないだろうから。
私見によれば、トランプ大統領再任と云う新時代において、欧州にとって最も有効な「先手」はロシアを西側自由陣営に引き込むことだ。NATOの将来を巡って、トランプ氏から受けた屈辱と蔑視と苦難の経験を前提にすれば、欧州側は当然そうするだろう。ロシアを自由欧州の一部にしてしまえば、NATOと云う軍事同盟は抑々不要になる。トランプ氏に一泡を吹かせるだけでなく見返すチャンスでもあり、そう云う展開を目指すであろう。欧州側は策を繰り出してポスト・プーチン時代の到来を早め、大量の経済支援を提供し、手早くロシアを自由欧州側に惹きつけようとするだろう。 トランプ氏に時間と機会を与えては危険だからだ。
一方トランプ大統領は、当然、即刻ロシアのプーチン大統領との関係を確立し、その維持強化に動くだろう。プーチン大統領も盟友トランプ新大統領と直ちに共同行動をとるに違いない。この状況下でロシア国民がどう行動するか。盟友トランプ氏の再選でプーチン大統領の地位が強化されて継続する可能性は十分ある。しかし、ロシアの民主化を求めるロシア国内のダイナミズムも動く可能性がある。トランプ大統領になればロシア国民はプーチン・トランプの強圧同盟の継続を嫌って行動を起こす可能性も無いわけではない。プーチン大統領はトランプ氏の再来を契機に多様な新しい衝撃が生まれることにも注意をしなければならない筈だ。
<ロシアは変わるのではないか?>
その上、ロシアはいずれ変わる。いずれは民主的な方向に変身する。そう論じている米欧の政治指導者、国際問題の専門家は非常に多い。しかも権威ある有力論壇でそれを論じている。欧州議会外交委員会は2021年ロシアの国内の圧政と対外的侵略は断固阻止するが、ロシアは民主化できると宣言した。ロシアの民主化は欧州諸国の総意だと示した。ロシア民主化不可能論や懐疑論が存在する中、ロシア人と数世紀にわたり国境を接して戦争と平和を生きて来た欧州の人々がロシアの民主化は可能だと公式に決議したことは注目に値する(1)。トランプ氏に散々苦しめられた欧州指導者はトランプ時代が再来するのだから、機を見てロシア民主化政策に取り掛かるだろう。
<自由ユーラシア時代の到来?>
曲折は当然ある。でも曲折を経て、リスボンからウラジオストックまで自由民主の長大な帯が出来る可能性はある。実現したら相当に歴史的な地政学上の変化だ。最も重要なことは自由なユーラシアが専制中国に隣接して生まれる点だ。トランプ大統領の再選で西側の安保体制などが万一にも弱体化する時に備える動きの一つになる。パクス・アメリカーナの延長線上にパクス・ユーラシアーナが出来ると云う構図だ(2)。先ず展望がなければ何事も起こらない。
それに地経学上も大きな可能性を孕む。シベリアの豊富なエネルギー資源や風力や太陽光などの自然エネルギー資源は内外の投資を誘発する。新生ロシア政府の政策よろしきを得れば、世界中から大規模な投資が集中する。世界の最先端技術が投入される。ソフト面でもハード面でも、事と次第では米国やヨーロッパに次ぐ大規模な経済圏が生まれる。平和を志向する全ての国が裨益する。
<結論>
トランプ氏が米国大統領に再度当選したと云う現実を前にしている以上、日本は欧州諸国と協力してロシアに働きかけるべきだ。そしてユーラシアに地政学的な展開を実現するべきだ。日本を始め米国、欧州などすべてが裨益する。全く新しい平和と成長へのダイナミズムが生まれる。この新しいダイナミズムに勿論中国は参加できる。 中国は希望するならこの自由ユーラシアが生み出す大きなダイナミズムに参加出来る。もっともロシアが民主化すると中国にも累が及ぶと見て、この動きを阻止しようとするかもしれないが。
(1)MEPs call for new EU strategy to promote democracy in Russia
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20210910IPR11925/meps-call-for-new-eu-strategy-to-promote-democracy-in-russia
(2)「ユーラシア大陸で地政学上の新時代を目指す」(2024年4月24日、西村六善、元外務省欧亜局長:http://www.gfj.jp/cgi/m-bbs/index.php?no=4979)
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