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2007-10-26 00:00
思い切ってコメの問題の解決に取り組もう
湯下博之
杏林大学客員教授
日本は対症療法的対応に優れていると言われている。現に、日本がこれ迄直面した大きな困難に対して、国を挙げて対応し、これを克服するとともに、更に大きく飛躍することが多くあった。一例を挙げれば、1970年代の2度にわたる石油ショックは、石油を全面的に海外に依存する日本にとって大変な困難をもたらしたが、それによって日本経済が崩壊するどころか、多大な苦労と努力の上でではあったが、安価豊富な石油に依存する経済体質を改造し、逆に省エネ技術を発展させて、世界をリードするようになった。自動車産業などは、省エネ技術の成果を生かして世界市場で大きく伸びたことは、よく知られているとおりである。
このように、うむを言わせない形で圧倒的な困難が見舞った時には、日本は全力を挙げてこれと取り組み、立派にこれを克服するのみならず、更なる飛躍へと発展するというすばらしい力を持っていると思う。ところが、困難がそれ程圧倒的でなかったり、或いは一気にではなくじわじわと襲って来る場合の対応は不得手のようである。そのような場合、日本の対応は煮え切らなかったり、小出しに種々対応するが、問題の解決が得られない。そして、状況が悪化して行く所まで行くと、ようやく重い腰を上げるといったところがある。しかし、このような対応では、問題の根本的解決が得られなかったり、傷が深過ぎたりし易い。
去る6月(本欄6月22日付投稿422号)と7月(本欄7月27日付投稿446号)に私が取り上げた日米貿易摩擦への対応も、そういう印象が強かった。現在日本で問題になっている財政再建の問題についても、そういう感じがしてならない。しばらく前から問題になっている日本のコメの問題についても似たような感じがする。
私は1991年から94年までベトナムで大使をしていたが、当時、日本からの来訪者に次のような話をしたことを記憶している。食糧問題、特にコメの生産が、日本にとって重要かつデリケートな問題であることは言うまでもないが、このままでは、将来、日本のコメの生産は壊滅してしまうのではないかと心配だ。ご存知のように、ソ連が崩壊した後、社会主義経済すなわち中央計画経済では発展はできないということで、これまでの社会主義国は市場経済の導入へと移行している。ここベトナムも、1986年から、ドイモイ(刷新)政策を採用して、市場経済を導入している。ところが、日本では、いまだにコメの生産量や価格は政府が決めるという中央計画経済を維持している。これでは、国際的に遅れをとることは不可避であり、日本も早く市場経済を導入すべきではないか。コメの貿易については、一気に自由化したら日本のコメの生産がつぶれてしまうから、例えば10年計画で農業政策を打ち出し、ちょうど日本の自動車産業がそうであったように、最初は保護の度合いを多くし、国際競争力がつくのに合わせて次第に自由化するということに、国を挙げて取り組むべきではないか。
あれから既に10数年が経ってしまったが、日本のコメの問題はいまだに大きな変化はなく、日本経済の今後にとって重要な諸外国との経済連携協定の交渉でも足かせとなる状況で、未解決である。しかし、このまま放置しておいて済む問題とは思われない。冒頭に記した日本の得意とする能力を活かして、国を挙げて取り組むときに来ていると思う。
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