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2007-10-25 00:00
連載投稿(1)グローバル競争下における非典型雇用の未来
池尾愛子
早稲田大学教授
去る9月27日に、国際労働機関(ILO、本部ジュネーブ)と早稲田大学の共同シンポジウム「グローバル競争下における非典型雇用の未来:日欧比較の観点から」が開催された。ILO出身の鈴木宏昌教授やILO駐日事務所が積極的に動いたのであるが、ILO共催の公開シンポジウムが参加者100名超の規模で日本において開催されたのは初めてと聞いた。ILOは1919年の創設以来、労働者・被用者、使用者(企業と個人の両方を含む)、政府・担当省の3者の代表たちが知識や経験を交換する国際フォーラムを提供し、世界や地域の変化の過程を分析しては、状況に応じた政策勧告を積極的に行ってきた。
非典型雇用とは、パートタイム労働、派遣労働、契約社員といった正社員ではない雇用形態をさす。非典型雇用の質の問題は、グローバル競争が進展する先進国に共通するものであり、経済協力開発機構(OECD、本部パリ)や欧州連合(EU、本部ブリュッセル)でも注目され、研究が進められている。日本においても近年、非典型雇用が増加し、また、若年者を中心にフリーターが増えていることから、働き方および雇用の質が問われるようになり、研究や成果の出版が盛んに行われている。
ヨーロッパ諸国では、1980年代から非典型雇用の拡大が議論されており、鈴木教授によれば、2つの見解に集約される。(A)非典型雇用の拡大には基本的に、働き方の多様化が反映されている部分、つまり労働者の自主的な選択による部分がある。(B)非典型雇用の拡大は基本的に、経済のグローバル化と雇用情勢の悪化により引き起こされる。(A)の働き方の多様化の背景には、労働者層の多様化があり、ワーク・ライフ・バランスの面からパートタイム労働を選択する人たちがいる。
また、絶えざる技術革新・情報化の中で、長期雇用の範囲が縮小する一方で、専門的技能を有する者には流動性志向が高いことがある。そして、労働者の年齢・家族構成によって、働き方の選択は異なる。(B)の「経済のグローバル化と雇用情勢の悪化」については、次のような諸点が指摘された。グローバル競争下の今日、ヨーロッパ諸国は安定した雇用基盤となる部門(主に保護された部門や産業、製造業、公共企業)において雇用が減少している。雇用の大半を占めるサービス業においては、価格競争が激しく、良質の雇用が少ない。労働組合の組織率や影響力は低下傾向にあり、非典型雇用の雇用・労働条件を改善できない。規制緩和とフレクシビリティ(雇用の柔軟性)の流れの中で、手厚い雇用保障が難しくなっている。
こうした情勢の中、ILOのD.キャンベル氏は1990年代に「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の概念を提示し、失業と就業という単純な2分類を脱して、雇用の質に注目するように提案した。この概念は定着して、ILOは現在、「ディーセント・ワークをすべての人に」を21世紀の優先目標として掲げ、雇用の量および雇用の質の問題に取り組んでいる。さらに、ILOのP.アウアー氏は、グローバル競争の中では企業は生き残るために早い変化が要求されることに鑑み、労働市場の弾力性(フレクシビリティ)と労働者のセキュリティ(安全・安定)をかけた「フレクシ-キュリティ(Flex-curity)」の概念を提案している。労働者にとってのセキュリティは、雇用と所得の組合せと捉えられ、雇用は流動的であっても、手厚い所得保障(失業保険の充実)ならびに教育・訓練への集中的な公的投資があればよい、とされる。これは、高福祉と高負担を組み合わせるヨーロッパ・モデルの一つである。(つづく)
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