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2023-12-21 00:00
弱まる覇権と分極化するアフリカ
遠藤 貢
東京大学教授/「アフリカ政策パネル」主査
グローバルなインド太平洋地域を特徴付ける「薄い覇権」「薄い自由主義秩序」といった概念が提起されてきた。これは、「異質で、相対的に自律的な構成要素からなる覇権的な国際システムであり、これらの構成要素が密に、またしばしば協調的に相互作用し合うものの、その規範的な選好が一点に収束することはなく、支配的な権力の選好を反映することもない。そして、この支配的な権力は、このシステム(あるいはその一部)を緩やかに構造化するにとどまり、何らかの公共財を提供する役割を担う」(Verhoeven 2021)と定義されてきたが、これは、アフリカにおける地政学的現状を考える上でも援用可能な概念と考えられる。
アフリカでは21世紀に入り中国のプレゼンスの高まりが指摘されてきており、資源開発を目的とした融資にみられた「アンゴラ型モデル」が従来は中心であったが、近年はジブチの自由貿易区などにみられる経済特区の開設などを通じた貿易を通じた協力を進める「泰達協力モデル」も用いられるようになっている。大陸レベルでは、「アフリカ大陸における輸送網の整備を通じた大陸レベルでの連結性の強化と、その巨大な経済市場の実現」といった協力においては一定の協力関係が観察される。また、中国・アフリカ協力フォーラム第8回閣僚会議(FOCAC8)でも示されたような人的交流の活発化も進められている事例がある。
冷戦終焉以降、アフリカ諸国との関係が低調であったロシアも、近年サミット級の会合を開催しているほか、軍事、鉱物資源開発、原子力施設建設、メディアなどの領域での関係強化に向けた動きが観察される。とくに、対象国としては「弱い政府」に特徴付けられる国々との関係強化を、偽情報なども利用する形で強化する動きもあるほか、中央アフリカやスーダンではワグネルを中心とした軍事組織と現地政府との関係強化の動きが活発化するなど、不安定化が進んでいるサヘル・アフリカや「アフリカの角」地域での関係強化が進んでいる。ブルキナファソ、マリなどサヘル・アフリカではクーデタで誕生した政権の支援などの動きが見られてきた。と同時に、それまで旧宗主国として軍を派遣していたフランスは、軍の撤退を余儀なくされるなど、情勢が大きく変化する局面を迎えており、第二の(フランスからの)「脱植民地化」と言った評価もなされるようになっている。
こうした中国やロシアの動きを受けて、2022年8月にはアメリカが「サハラ以南アフリカへのアフリカ戦略」と題した報告文書を現し、その中でアフリカの戦略環境の変化に対する認識を示すとともに、中国とロシアに具体的に言及する形で、アフリカの不安定化につながりかねない状況への対応の必要性を議論しているほか、2022年12月にはオバマ政権以来初となるアメリカ・アフリカ首脳会議を開催するなど、改めてアフリカ諸国との関係構築の動きを加速化している。
こうした各国の動きは、旧宗主国の後退やマリでみられるような国連PKOの撤退などの動きと併せて考えると、アフリカにおいて「覇権」を行使できる国は現状では存在が確認できず、それ故に、国連総会におけるロシアのウクライナへの軍事侵攻への一連の決議採択時に、アフリカの票が大きく分かれる結果にも反映していると考えられる。当面アフリカをめぐっては、地域をめぐる覇権が弱体化する中で、様々な国の思惑が交錯し、極めて分極的な対応が現れてくる地域としての特徴を示すことが予想される。
引用文献
Verhoeven, Harry. “Ordering the Global Indian Ocean: The Enduring Condition of Thin Hegemony,” in Verhoeven, Harry. and Anatol Leeven, eds. Beyond Liberal Order: States, Societies and Markets in the Global Indian Ocean (London: Hurst 2021), pp.1-40.
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