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2023-09-12 00:00
形骸化されたG20の首脳宣言
岡本 裕明
海外事業経営者
G20での首脳宣言は出せないのではないか、とも言われていましたが、なんということはない、首脳会議をやる前に首脳宣言が出てしまいました。メインの会議は9月9日から10日で首脳が本格討議するのは10日の予定でした。その首脳宣言は10日の「本番」前である9日の午後に出る異例の事態となったのはインドが今年、G20関連国際会議で共同宣言を全くまとめられなかった屈辱が背景です。しかしながら、今回の首脳宣言、私からすれば茶番に近いものだと考えています。首脳宣言は必ずしも会議の最後に取りまとめられて出されるわけではなく、最近は首脳宣言そのものの価値は事務方の事前の調整能力によるところが大きいようにも感じます。今回も西側、中ロやBRICS、およびグローバルサウスといった各セクターの最大公約数の妥協の産物といえ、宣言そのものにどれだけの価値があるのか、はなはだ疑問と考えています。
その宣言の内容でウクライナが不満を表明したのは「すべての国家は領土獲得を目的とした威嚇または武力の行使を差し控えなければならない」(産経)という表現。この「すべての国家」と記載したところがミソで誰でもプロパガンダとしては「そうだ!」といえる内容であり、合意できるのは当たり前です。しかし、歴史上、いわゆる公約に反した行動をとる国家は常にその独自の理由を振りかざし、「そうしなくてはいけない状況が生じたのであり、我々が悪いわけではなく、そういう状況に押し込んだ周りが悪いのである」という論法に出るのです。よって今回採択された教科書的な首脳宣言の採択は高校生でも思いつく内容であり、具体性にも乏しいと言えるでしょう。故に私は引き続き、増え続ける国際会議の意義は不明瞭、かつ、形式的であり、参加者も事務方もおざなりである、というスタンスに変わりはありません。首脳宣言はテーマごとに多岐にわたります。上述の国際関係だけではなく、経済については経済成長に不確実性のリスクを掲げています。また食糧安全保障ではウクライナの農産物の供給の安全確保を、気候変動問題についても今までの各種国際会議での提言とさして変わりはありません。
特に食糧とエネルギーに関しては供給と価格安定も念頭に提言されたものですが、それらのリスクは私は違うところに主因を見ています。(1)ポストコロナで安定期にまだ至らないこと、(2)地球温暖化による干ばつや異常気象による農作物や水産物が計画通り産出されないことが不可抗力になりつつあること、(3)SDG’sに絡み、エネルギー源を化石燃料からの脱却を進める政策的スピードが速すぎるため、各国の思惑が複雑に入り組み、人々の生活の変化対応がキャッチアップしていないことがあると思います。(1)については今後、同様の伝染症の疾病が起きない前提に立てばあと1-2年で落ち着くとみています。(2)については農産物や水産物のアウトプットが異常気象により、世界的な安定感が無くなるという前提にたった提言が欲しいところです。世界レベルでの供給バランスを考慮し、凶作や価格上昇に耐えうるストックする算段を行うべきでしょう。食糧とエネルギーの価格については供給国の一方的な利益確保のための価格上昇を制限できる条項を取り込む仕組みがないとG20の本来の意味はないと思います。(3)は読んで字の如くで、世界の首脳がCO2排出量などについて2030年とか50年という仕切りを作ったことで企業がそれに合わせた行動規範を作ったのは良いのですが、最終消費者がそれに振り回されている感じはします。一方、産油国は自国の経済体質を変えようと努力はしていますが、脈々と根付いた資源国の「ここ掘れワンワン」的な発想を変えるのは何世代も必要で、結局、その間、自国の権益を守るために産油の蛇口を占める行為は一番簡単な価格調整機能になってしまうのです。それを世界が制御できる仕組みは無いのです。
結局、各国の利権、利益、都合を国境を越えた国々でルール作りしましょう、というのは現実には極めて難しく、当面は当事者間の交渉に頼らざるを得ないのだと思います。仮に国際会議で特定国が批判されるような事態になれば拒否をし、強制力がない宣言である以上、それに従わないことは可能となります。アメリカが世界の警官であった際には強権力があり、従わない場合には厳しい制裁が待ち受けているというアメとムチの関係が結果としては世界秩序をある程度保つことが出来ました。今のように大国も小国も同じ立場になると民主的ではありますが、機能の面ではどうしても劣ってしまう、これが私の思うところであります。もちろん、国際会議をするのは構いませんが、形骸化した内容から踏み込めるスタイルに変える努力をしないと10年経っても20年経ってもほとんど会議の成果は見られないということになるのではないでしょうか?
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