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2023-06-07 00:00
賃金と物価
岡本 裕明
海外事業経営者
賃金と物価には明白な相関関係があります。つまり賃金が上がれば物価も上がる、物価が上がれば賃金も上がる、ですが、鶏と卵の話のようにどちらが先かと言われればこれは単純な話ではないかもしれません。賃金が上がり物価が上がる場合は健全な上昇、物価が上がって賃金が上がるのはより不健全に近い、というのが感覚的な話になるかと思います。私がいるカナダBC州の最低賃金が6月1日から16.75㌦になりました。円カナダドルの為替はざっくり100円と考えてよいので最低時給1675円。5月31日までが15.65㌦でしたから上昇幅は1.1㌦で率にして7%ちょうど。この州では近年毎年6月1日に最低賃金が引き上げられ、概ね年平均5%超の上昇となっています。つまり物価上昇率に比較的近く、スライドしていると言ってよいでしょう。この傾向はもう10数年続いているわけで初めの頃は雇用者から反対の声もあったのですが、今ではそのような意見はあまり聞こえてきません。何年か前にアメリカを含めた北米は最低時給15㌦を目指す、という声が聞こえた際には「本当かい?」という疑いの目すらあったのに今ではそれを軽く超えてきているわけです。日本では東京や神奈川、大阪の最低賃金が1000円を超えてきましたが、当地とは60%も違う訳でデフレ下のニッポンのツケが今になって廻ってきたような感じです。
今週号の日経ビジネスの特集が「争奪 アジア人材 選ばれない安い日本」です。私は過去何度か、アジア人が日本を選ばなくなっていると申し上げたことがありますが、今般、改めて特集記事が組まれたことの背景は「好む、好まざるにかかわらず外国人労働者は欲しい」というのが経営者の声、だけど裏腹にそれが厳しくなってきた、それがこの特集の趣旨です。農家の収穫時。シルバーさんに頼っていた農家は人が集まらないことに危機感を持ち始めています。なぜか、といえば収穫期は一緒なのです。だからどこの農家も同じ時期に同じ地域で人が欲しいのです。そしてその絶対数は減っていきます。理由は「故障者続出」で、それを補うのが健康で若い外国人労働者です。しかし、外国人で農業補助をやるならオーストラリアが一番です。日本の賃金の2倍はもらえるからです。
工場など製造業はどうでしょうか?日本に来る外国人労働者トップ3はベトナム、中国、フィリピンのようですが、日経ビジネスによればベトナムは今後、漸減するだろうと。理由は同国そのものの経済発展により、自国の経済活性化が進むためとされています。雑誌には記載されていませんが、この話にはもう一つの切り口があります。それは中国を経済的に締め上げたG7が作り出した副作用です。どういうことでしょうか?G7諸国は一部の中国製品に対して高関税をかけるなどして規制をかけています。中国はそれを逃れるため、最終生産地を東南アジア諸国に移管しているのです。ベトナムはその一つ。つまり、中国からベトナム向け半製品の輸出が急増し、ベトナムからアメリカなどの先進国向け輸出が爆増するのです。またベトナムはTPP11に入っているし、TPP加盟国ではない対アメリカ貿易は全体の3割弱を占める最大の輸出相手国なのです。その上、韓国のベトナムへの直接投資も非常に多く、同国は急速に発展し、労働者の得る賃金も当然ながら上昇、一部のケースでは日本をしのぐ状態になっているのです。
今年の春闘は大手企業が賃上げを断行したこともあり、「物価が上がったから賃金が上がる」というサイクルから「賃金を引き上げ、日本経済の基礎体力を強化する」動きが多少見えてきました。ユニクロが大幅な賃上げをした背景には出店先である東南アジア諸国の方が元気がある、と柳井さんが気がついたからでしょう。そう、日本は「ゆでガエル」になりつつあったのです。岸田さんが新しい資本主義を断行したいなら、一番先に最低賃金を毎年云々するのではなく、向こう5年間のプランをぶち上げてしまったほうがよいでしょう。個人的には5年で3割、つまり2028年には最低時給1300円が必達だと思います。賃金を上げると税収は増えるのです。また株価なども上昇しやすくなり、最終的には年金の支給額も下支えできるオセロゲームのような状態を生み出すことができます。以前から申し上げているように日本はお祭りムードになるとイケイケドンドンになるのでこのきっかけをうまく利用すれば2030年に向けて日本に太陽が再び上ることも夢ではないかもしれません。
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