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2022-12-15 00:00
ブラジル大統領選:現職のボルソナロが元職のルラに敗退、中南米でも米中覇権争い
舛添 要一
国際政治学者
ブラジルでは、10月30日に大統領選挙の決選投票が行われ、元大統領のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ(2003〜2010年、2期8年間在任)が現職のジャイル・ボルソナロ(2019年〜)に競り勝った。
ルラは労働組合の指導者として頭角を現し、1980年に労働者党を創設し、下院議員を経て、大統領になっている。左派で貧困層への支援に力を注いだが、それはブラジルが誇る天然資源の価格上昇によって、高い経済成長を実現し、潤沢な税収を確保できたからである。ボルソナロは「ブラジルのトランプ」と言われる軍人出身の右翼政治家で、国営企業の民営化などを推進してきた。新型コロナウイルスを「ただの風邪だ」と言ってのけ、感染拡大で大きな被害を出している。ルラの勝因は、経済問題にある。コロナ感染、ウクライナ戦争などによって経済格差は拡大し、十分な栄養すら摂取できない貧困層が拡大した。この点を強調して、最低賃金の引き上げなどの低所得者対策をアピールしたルラに軍配が上がったのである。ボルソナロも、貧困層向けの現金給付などの対抗策を打ち出したが、僅かに及ばなかった。
ブラジルの大統領選で左派が勝利したことで、中南米ではGDP上位6カ国全てが左派政権となり、2000年代の「ピンクの潮流」の再来と言われている。1998年12月のベネズエラ大統領選で反米左派のチャベスが当選し、その後、11カ国で左派政権が生まれるという事態になった。ただ、左翼であっても共産主義革命を志向する「赤」までは行かず、選挙で政権を狙う穏健な左派なので「ピンク」と呼ばれたのである。チャベスは反米を掲げたが、ブラジルやアルゼンチンなどの穏健左派は反米を志向することはなかった。2013年にチャベスが死去すると、左派政権の勢いにも陰りが見え始め、2015年頃からアルゼンチンやブラジルで中道右派政権が誕生する。そして、その右派の舵取りが経済格差を拡大させ、その不満が再度の政権交代につながっていったのである。メキシコでは2018年に、アルゼンチンでは2019年10月に、チリでは2021年11〜12月の大統領選で、コロンビアでは5〜6月の大統領選で、ペルーでは、2021年4〜6月に大統領選で、ボリビアでは2020年10月の大統領選で、ホンジュラスでは、2021年11月の大統領選で左派が勝っている。
バイデン政権は、中国に対抗するために民主主義の旗を掲げているのであるが、それは逆効果になり、アメリカ離れを促している。中国は、それを好機ととらえ、経済支援を武器にこれらの国々との関係を深めている。エルサルバドルは2018年に、ニカラグアは2021年に台湾と断交し、中国と国交を結んだ。米中の覇権争いは、中南米も舞台にして展開されている。米外交が、ウクライナや台湾を優先させる間に、裏庭の中南米ではまた「ピンクの潮流」となっている。アメリカのプレゼンスの希薄さを喜んでいるのは中国である。
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