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2022-12-08 00:00
ロシアによる日本攻撃計画を読む
倉西 雅子
政治学者
本年11月25日付でニューズウィーク誌が報じたある記事が、日本国内で、注目を集めることとなりました。その記事とは、ウクライナへの軍事介入に先立つ2021年8月頃に、ロシアが、かなり真剣に対日攻撃を準備していたというものです。にわかには信じがたい記事の内容なのですが、同記事は、一体、何を意味しているのでしょうか。
同記事が正しければ、プーチン大統領の第一義的な目的は、ウクライナ国内のロシア系住民を保護することでも、東南部も分離独立を支援することでもなく、‘戦争を起こすこと’であった、ということになりましょう。ウクライナは選択肢の一つに過ぎず、戦争さえ引き起こすことができれば、どこでも構わなかったのです。もっとも、日本国が相手では、国際社会に対して正当性や合法性を主張し得る戦争の口実を‘創る’のが難しく、準備はしたけれども、結局は断念したと言うことなのでしょう。昨年の8月8日に、ロシアは、第二次世界大戦時の日本軍に関する機密文書が解除しましたが、同月中旬頃になると報道の論調が過激となり、「日本は残忍な生物化学の実験を行い、残酷で、ナチズムへと向かう性向がある」とする方向に世論を誘導しています。対日糾弾の激化は、開戦を前にした敵愾心を煽り、自らを‘被害側’と位置づけるための戦争プロパガンダの一環と見られますので、同情報は、ある一面、事実を述べているのでしょう。しかしながら、同記事には、不審な点もいくつか見られます。
第一に、記事の出所は、ロシアのロシア連邦保安庁(FSB)に潜んでいる‘内部告発者’としています。「変革の風」を名乗る同内部告発者は、フランスに亡命した元実業家にして人権擁護活動かであり、かつ、ロシア内部の腐敗を告発する「グラグ・ネット」の運営者であるウラジミール・オセチキン氏に情報を提供しており、今般の対日攻撃準備の件も、同氏からのメールによるそうです。記事の信憑性については、専門家がお墨付きを与えていますが、厳格な情報統制が敷かれているロシアにあって、かくも容易に内部告発のメールが送信できるのも、不審な点の一つです。むしろ、‘内部告発者’が二重スパイ、あるいは、偽情報を掴ませるための工作である可能性もありましょう。
第二に、同情報を公開した目的についても、不審点があります。何故ならば、ロシアによる対日攻撃準備が事実であれば、同情報によって最も‘得’をするのは、ウクライナであるからです。ウクライナは、‘自国は日本国の身代わりとなった犠牲者である’とする立場を国際社会に対してアピールできます。ポーランドへのミサイル着弾事件を機に、ゼレンスキー大統領に対する風当たりも強くなり、アメリカでも、ウクライナへ支援の見直しを求める声も上がっています。窮地にあるウクライナが、他の諸国、特に日本国の支援を引き留めるために、‘身代わり説’を流布しようとした可能性も否定はできません。
第三の不審点は、ロシアの計画があまりにも無謀である点です。同記事では、北方領土問題が発火点となるかのように説明していますが、現在、北方領土は、既にロシアの占領下にあり、同国の国内法によって併合されています。仮に、北方領土が発端となるとすれば、ロシアではなく、日本国が、領土奪還を口実にロシアに対して武力攻撃しなければ、戦争は始まらないのです。このシナリオは、日本国内の世論や政治状況にあっては不可能に近いと言えましょう。また、日米同盟が存在していますので、ロシア側が日本国を攻撃すれば、米軍と戦うことをも覚悟しなければならなくなります。同記事では、局地戦になるとしていますが、プーチン大統領の真の目的は、対日戦争を越えた第三次世界大戦の誘発であったと考えざるを得ないのです。もっとも、日本国側からの先制であれば、日米同盟は発動されませんので、何らかの方法で日本国を挑発しようとしたとも考えられます。
そして、第四の不審点は、記事が述べている「反日情報キャンペーン」の内容が、中国の主張と重なる点です。731部隊については、同部隊が人体実験の対象としたとされる人々が、主として捕虜やスパイ容疑で拘束されていた中国人であったことから(もっとも、真偽については議論がある・・・)、中国側が積極的に対日プロパガンダに用いてきました。少数ながらもロシア人も実験の犠牲者となったとする指摘もありますが、対日攻撃の根拠としてはあまりも薄すぎます。むしろ、ロシアではなく、中国の計画なのではないかとする疑いも生じます。
以上に主たる不審点として四点ほどを挙げてみましたが、今般の対日攻撃計画は、どこか、‘ちぐはぐ感’が拭いきれません。その一方で、ある一つのシナリオを想定しますと、ロシアや同情報を発信する側の不審行動に説明が付くように思えます。それは、同計画は、ロシアというよりも、ロシアをも背後からコントロールする‘世界権力’によるものではなかったのか、というものです。第三次世界大戦を渇望しているのは‘世界権力’であり、今なおも、傘下のメディアを駆使して同シナリオを実現すべくグローバルな情報操作を実行しているのかもしれないのです。どの国のどの地域であれ、第三次世界大戦さえ起こせば、彼らの野望は達成されるのでしょう。同記事を書いたのは、イザベル・ファン・ブリューゲンという名の記者であり、オランダ系である点も気にかかるところです。本記事への日本国内での反応として対ロ戦争を想定した軍備増強論も聞かれますが、煽られた末に戦争への道に引きずり込まれないよう、情報作戦や世論誘導のリスクには十分に気をつけるべきではないかと思うのです。
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