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2022-11-14 00:00
混迷深めるイギリス政治:ポピュリズムのBrexitがもたらしたもの
舛添 要一
国際政治学者
イギリスでは、トラス首相が、就任から45日で辞意を表明した。この6年で4人もの首相が辞任するという事態は、議院内閣制の祖国であるイギリスにしては異常事態である。4人の在任期間は、デーヴィッド・キャメロンが2010年5月11日〜2016年7月13日、テリーザ・メイが2016年7月13日〜2019年7月24日、ボリス・ジョンソンが2019年7月24日〜2022年9月6日、リズ・トラスが2022年9月6日〜である。この4人は、皆オックスフォード大学の出身である。しかし、高学歴、名門大学出身であっても、ポピュリズムに抗することはできなかった。
保守党党首選では、ウクライナ戦争の長期化に伴う物価高への対応策として、トラスは大型減税を掲げた。450億ポンド(7.6兆円)という規模である。この減税によって経済成長が実現し、それが賃上げにもつながり、インフレを克服するという目論見である。しかし、財源はどうするのかという疑問が当然に出てくる。イギリスは構造的な財政赤字に悩んでおり、財政再建への明確な道をトラスは示すことができなかった。このような経済政策に対して、金融市場が否定的な反応を示し、ポンドはドルに対して急落し、英国債の利回りは急上昇したのである。また、IMFやバイデン米大統領も、トラスの政策を厳しく批判した。そこで、トラスは、法人税を引き下げる、所得税の基本税率を20%から19%に引き下げる、所得税の最高税率を45%から40%に引き下げる、配当税率を引き下げる、イギリスを訪れる旅行者に付加価値税(VAT)を免除するなどの減税策を次々と撤回していったのである。クワーティング財務大臣も更迭した。このような公約破りの混乱に対して国民は反発し、トラス内閣支持率は7%、不支持率は77%という状況になったのであり、与党内からも不満の声が高まった。こうして、トラス首相は辞任という決断を下さざるをえなくなったのである。しかし、先の党首選でトラスを選んだのは、保守党の国会議員であり、党員であり、彼らが大型減税という政策を支持した。つまり、ポピュリズムなのである。
6年で4人という首相の数は、このポピュリズムに大きく関連している。2016年はポピュリズムが跋扈した象徴的な年である。この年の秋のアメリカ大統領選挙ではトランプが大統領に当選し、イギリスでは6月に国民投票でEU離脱が決まった。この2つは、ポピュリズムの害毒である。イギリスのEU離脱に関して言えば、最大の責任者は当時のキャメロン首相で、EU残留派の彼は、保守党内の離脱派を懐柔させるために国民投票で決めると言ってしまったのである。彼は、たとえ国民投票を実施しても、承認されるはずはないと予測したのである。ところが、イギリスの国民は、面白半分に「お祭り騒ぎ」でEU離脱に賛成票を投じてしまった。離脱となったときに、どうなるのか、どのような不利益が生じるのか、またどのような離脱手続きが必要なのかなど、全く議論もされないままの国民投票であり、ポピュリズムの極みであった。今回のトラス辞任劇にもBrexitが大きく関連しているのでる。
スナク元財務相が次期首相に決まったが、彼は財政再建派である。どのような舵取りをするのか、世界が注目している。因みに、スナクもまたオックスフォード大学出身者である。ポピュリズムは学歴などに関係なく、病原菌のように広がっていく。
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