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2022-10-29 00:00
党大会直後の中国の動向再論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
10月29日未明、「党大会直後の中国の動向について」を投稿して休んだ小生は今朝、ネット情報を調べて驚いた。28日晩の中国共産党中央政法委員会HP「中国長安網」によると、同委員会トップの書記に郭声コン(王ヘンに昆)に代わって国家安全部長の陳文清・政治局委員兼中央書記処書記(62歳)が就任したのである。そして、同副書記には公安部長の王小洪・中央書記処書記(65歳)が名を連ね、中央書記処内に政法系統人員2人が入るという異例の人事となった。また、かつて「中国版KGB」の設立(1983年)とさえ揶揄された国家安全部のトップが政法委員会トップに就くのも初めてのことである。確かに党大会開催直前の10月13日、北京市内には「反習近平」を訴える横断幕を掲げた抗議活動が行われた(14日付拙稿参照)。さらに、この横断幕の主張は中国内外のSNSで拡散し、北京市の映画館では落書き・ビラ撒きが確認され、上海市の路上では同様の横断幕を掲げて行進する女性の姿がみられた。また、26日には中国のチベット自治区で「ゼロコロナ」政策に伴う厳しいロックダウンへの抗議デモとみられる映像がSNS上で拡散していることから、今後の治安状況不安定化に対処するための政法系統人事の抜擢・重用なのであろうか。
他方、中国共産党の習近平総書記が率いる「チャイナ7」政治局常務委員の活動は順調である。10月25日、第3期習近平体制下初の政治局会議が開かれ、今回の党大会精神=「習近平の新時代中国特色社会主義思想」の学習・宣伝の貫徹を決定した。27日には習近平自ら、新任の政治局常務委員を連れて中国革命の根拠地であった陝西省西安を訪れ、偉大な建党精神・延安精神を発揚し、党大会が提起した目標・任務実現のために団結奮闘しようと訴えた。同地訪問で感極まった習総書記は、「私は延安地区で7年間働き生活し、父(習仲勲)の世代もここから出ており、同地を熟知している」と切り出し、「かつて陝西省北部で人民公社生産隊に入隊した頃、延安を通る時に私は第7回党大会開催跡地など革命旧跡を見学した。中央に移った後も私は、延安を3回訪れて考察、調査研究を行った」と強調した。さらに、習総書記は「今回、政治局常務委員同志と一緒に来たことは、新たな中央指導集団が将来、延安時代に党が作った優良な、革命的な伝統と作風を継承・発揚し、延安精神を奮い起こすことを示している」と主張したのである。しかし、先に投稿した拙稿で主張したように、中国共産党の最高指導部を支える中央直属機関の人事は中央弁公庁主任、中央組織部長(中央党校校長兼務)、統一戦線工作部長等が今もって決まっていない。対照的に中央政治局常務委員会、中央書記処と同じ構成の「チャイナ7」(7人体制)になった中央軍事委員会の人事をみてみよう。
10月23日に決定された中央軍事委員会の陣容は以下のとおりである:
主 席:習近平(総書記、国家主席 69歳 留任)
副主席:張又侠(政治局委員、元装備発展部長 72歳 留任)
何衛東(政治局委員、前東部戦区司令員 65歳 新任)
委 員:李尚福(装備発展部長兼宇宙総指揮、元戦略支援部隊司令員 64歳 新任)
劉振立(陸軍司令員、元陸軍・武装警察参謀長 58歳 新任)
苗 華(政治工作部主任、元海軍政治委員 67歳 留任)
張昇民(軍規律検査委委員会書記、元第二砲兵政治部主任 64歳 留任)
この陣容を見て「対台湾シフト」の強化、ひいては対台湾「戦時体制」の形成だという評価も出て来ているが小生は、違和感というか、異なる評価を持った。党大会前、香港情報では副主席に委員の苗華(67歳)と張昇民(64歳)が持ち上がるという観測が出ていたが、それでは政治工作要員だけで文官の習主席を補佐することになり、軍事作戦担当は誰を入れるのかと疑問だった。現実には許其亮(空軍上将、72歳)が引退する一方、筆頭副主席として張又侠は72歳ながら留任し、新任の副主席には東部戦区司令官を務めた何衛東(65歳)が就いた。これら2人の副主席は確かに軍事作戦担当であり、張副主席は習主席とともに父親が国共内戦時の戦友という親密な間柄でもあり、軍事部門における習主席のアドバイザーのような立場になる。また、何副主席は、今回の党大会でヒラの党員から初めて中央委員に選出されると、一気に政治局委員にまで抜擢された。さらに香港情報では、軍の会議に何副主席が「中央軍事委員会・統合作戦指揮センター(中国語:聯合作戦指揮中心)」の肩章を付けて出席したと伝えられ、作戦現場の指揮・管理を担当する可能性が高い。逆に委員と職務に留任した苗華、張昇民は「政治将校」として軍の政治工作に専従するということであろうか。他方、今回初めて中央軍事委員会入りした2人の新任委員はどう評価したらよいか。李尚福(64歳)は筆頭委員として、順当にいけば魏鳳和・国防部長の後任に就く可能性が高いが、これは来年の全人代会議の議決を待たなければならない。また、陸軍司令員の劉振立(58歳)も、軍事委員会から軍種トップが排除されている現状からすると李作成・統合参謀長(元陸軍司令員)の後任に就くのが順当である。では、こうした軍務における「チャイナ7」体制の成立は、本当に「対台湾シフト」の強化なのであろうか。一見、作戦系統は充実したようにみえるが、軍種として海軍、空軍、ロケット軍の各司令員など作戦系統は排除されている。むしろ軍事委員会における軍種間の勢力構成をみると、文官である習近平主席を除く6人の軍人は陸軍4人(副主席の張又侠・何衛東、委員の李尚福・劉振立)、海軍1人(苗華、ただし彼は陸軍から転科した政治将校)、ロケット軍1人(張昇民、政治将校)となり、従来の「陸軍偏重」傾向が復活したように思えるのだ。このようにみてくると、党務における中枢の事務処理機構である中央書記処は政法系統が、軍務における最高指導部の中央軍事委員会は陸軍軍人がそれぞれ「重用」され、今後影響力を増していくのは第3期習近平体制の行末を暗示しているように小生には思え、今後の一層の人事異動の動向が注目される。
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