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2022-10-20 00:00
ウクライナ議会の北方領土日本領決議が問う倫理問題
倉西 雅子
政治学者
先日、奇妙なニュースが日本国に飛び込んできました。ウクライナ議会が、10月7日に「北方領土はロシアによって占領された日本の領土であると確認する決議」を採択したというものです。メディアの解説に依りますと、同決議には、ロシアによって軍事占領され、国内法によって一方的に併合されてしまった東部・南部4州とロシアの占領下にある北方領土4島を同一視し、日本国との対ロ連帯を強める狙いがあるそうです。国際社会にあっては、これまで北方領土に対する関心は比較的薄かっただけに、遠方から思わぬ‘強い味方?’が現れたとして歓迎する向きもあるかもしれません。しかしながら、同決議案には、‘罠’ともいうべき深謀があるように思えてならないのです。先ずもって日本国側の認識として留意すべきは、同決議案は、明らかに戦時体制にあるウクライナの国家戦略の一環であるという点です。仮に、同国が、北方領土問題について純粋にロシアによる侵略行為として解決すべき問題と認識していたとしたら、とうの昔に同様の決議を行なっていたことでしょう。決議案のタイミングは、明らかにロシアへの対抗を意識したものであり、日本国に対する対ロ陣営への呼び水と言うことになりましょう。
それでは、同決議は、日・ウ間の連帯感醸成という精神的なものに過ぎないのでしょうか。確かに、決議の内容は、直接にウクライナへの軍事支援を要請するものでも陣営への参加を呼びかけるものでもありません。「日本の北方領土に対する立場を支持する。国際社会は、北方領土が日本に帰属するという法的地位を定めるため、すべての可能な手段を講じるべきだ」とする決議の文面からしますと、国際社会に対して北方領土を法的に日本領と確定するように求め、同問題の平和的な解決を促しています。しかしながら、時期が時期であるだけに、以下のような推測も成り立つように思えます。それは、日本国を対ロ戦争、否、第三次世界大戦に引きずり込むというものです。仮に決議案の通り、国際社会が北方領土を日本領として認め、法的地位が確定するとしますと、自ずと日本国の立場にも変化が生じます。これまで、日本国は、北方領土を法的、並びに、歴史的根拠に基づいて自国領として主張しており、この基本的な立場には変わりはありません。しかしながら、北方領土には、ヤルタ密約など対日参戦等をめぐる連合国間の駆け引きが複雑に絡んでいるため、国際司法解決については消極的な側面がありました。今般、日本国の北方領土領有権が国際司法機関等の判決によって確立するとしますと、現状は、ロシアによる侵略、あるいは、不法占拠が確定することとなります。
北方領土問題の司法解決自体は、最も望ましく、最も理にかなった平和的解決方法です。仮に、ロシアが国際司法判決に誠実に従い、北方領土を返還するとしますと、同問題は平和的に解決します。ところが、ロシアが日本国への返還を拒み、北方領土に居座るとなりますと、日本国は、領域の侵害に対する自衛行為としてロシアに対して武力行使を行なう正当な権利を有することとなります。もちろん、同権利を即時に行使せずに留保することは可能なのですが、ここに、ウクライナ側の狙いは、対ロ参戦の動機付け、あるいは、国際法上の根拠の提供にあるとする疑いが生じます。遠方のウクライナのために命をかけて闘わなくとも、自国領と確定した北方領土を取り戻すためであれば、日本人の多くは愛国心に燃えて戦場に赴くかもしれないからです。ウクライナとしては、兵力を割かざるを得ない二正面戦争にロシアを追い込むのは戦略上の得策なのです。
このように推測しますと、ウクライナの決議案を手放しで歓迎することはできず、むしろ、封を切るのが躊躇われる招待状であるのかもしれません。否、近い将来、日本国が対ロ戦争に参戦する事態ともなれば、相手国が核を含む先端兵器を保有する軍事大国なだけに、事は深刻なのです。国土が徹底的に破壊されるのみならず、国内外にあって日本国民の多くの命が失われかねないのですから。そして、仮にウクライナの思惑が、戦争に巻き込むことにあるならば、同国の方針は、倫理的責任をも問われることにもなりましょう。自国、あるいは、自己の利益や目的のために他国に犠牲を払わせることは許されるのか。ウクライナは、大半のマスメディアが報じるように‘ロシアから攻められているかわいそうな国’なのでしょうか。しばし考えさせられてしまうのです。
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