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2022-09-21 00:00
(連載1)英王室と皇室、国家統合の役割を巡る課題
倉西 雅子
政治学者
民主主義国家における、今日に見られる君主の役割の統治(権力)の分野から統合(権威)の分野への一般的移行は、民主主義と伝統とを両立させる知恵の一つでもありました。伝統は、時間軸において国家の歴史を継承すると共に、その共有は国民を纏める求心力ともなるからです。たとえ民主主義とは相容れない世襲制ではあっても、伝統が宿す統合力は、国家にとりまして有益であったと言えましょう。
しかしながら、君主の統合力の源泉が伝統にあるとしますと、君主も人である限り、時の経過による変化というものから逃れることはできません。また、永遠に生き続けることもできませんので、代替わりを余儀なくされます。代換わり毎に妃や王配が育った家の家風や別系統の文化も流入するのみならず、民主主義社会が作り出す時代の変化にも晒されますから、王族も皇族も、伝統の継承者としての存在意義が薄らいでしまうのです。一般国民との差異が時を減るにつれて縮小しますので、超越的な権威を頂点とする求心型の構図が崩れ、統合の役割を維持することも難しくなります。君主の求心力低下を防ぐために、日本国の皇室も含め、世界各国では様々な方法が試みられているようです。国民との距離を縮めるために親しみやすさを演出したり、国民に向けて直接に情報を発信するSNSも利用されています。日本の皇室では検討段階のようですが、英王室では、既にSNSは活用が開始されているのです。また、様々なイベントに積極的に出席するなど、公務に励む姿勢を見せて国民への奉仕をアピールするという方法もありましょう。何れであれ、こうした試みは、垂直型となる求心型の統合を半ば諦め、国民の中に自ら入ってゆくことで、国民との連帯意識に基づく水平的な統合への転換を目指す方向性として理解されましょう。
しかしながら、原理的に水平型の統合は位階制とは相容れません。水平型に移行させますと、君主の権威が国民に認められなくなり、自己否定となってしまいます。そこで、垂直と水平を両立させるという殆ど不可能な命題に取り組まなければならなくなるのですが、これは、簡単なことではありません。
例えば、水平型の意図を以て国民と親しく接する機会を増やすために様々なイベントや行事に頻繁に臨席したとしても、垂直型を意識して権威性を保つ待遇が維持される異常一般国民の側からすれば、逆に垂直的な上下関係を否が応でも意識する機会が増えます。このような場合は、水平型の統合の側面を重視する国民からすれば、言葉遣いや振る舞いに神経を使わざるをえず、むしろ屈辱感が増長されてしまうでしょうし、熱心な王室・皇室支持者であれば、接触機会の増加や親しさの強調は権威性の棄損と感じられるでしょう。また、SNSの発信にしても、世間一般におけるお友達関係のコミュニケーションというわけにはいかないことでしょう(おそらく、有名人と大多数のフォロワーの関係となるのでは・・・)。結局、この取り組みは、‘垂直は水平なり’という二重思考を国民に強いる結果を招き、国民に心理的な圧迫感を与えかねないのです。そして、この構図における王族・皇族は、どこか、人民の一人を自認し、国民と同等ぶりを見せながら、自らが国民と同列であることは認めない点で、拭い難い自家撞着を抱えざるを得ません。(つづく)
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