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2022-08-30 00:00
(連載2)緊急事態条項への尽きない疑念
倉西 雅子
政治学者
先ずもって確認すべきは、緊急事態宣言が発令されますと、日本国の統治権力は、内閣総理大臣に集中するということです。第99条1項には、「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効果を有する政令を制定できるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる」とあります。この条文からしますと、緊急事態宣言が発せられた場合、国会による立法措置を経ることなく、内閣総理大臣は、内閣に諮りつつも自らの独断で法律を制定し、命令を発することができます。加えて、地方自治体の長は内閣の指示に従う義務が生じますので、地方自治も事実上停止されます。結果として、日本国の統治機構における権力分立が、垂直(中央・地方)・水平(立法・行政)の両レベルで消滅することでしょう。いわば、首相独裁体制とでも言うべき体制が出現することとなります。
こうした集権体制は、国民の側の義務の強化によって完成されます。同条の3項には、「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体、財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関が発する指示に従わなければならない」とあり、政府の指示に従う国民の義務が定められています。ここに国民の義務が明記されていますので、同体制下では、国家と国民との間に命令と服従という関係が成立するのです。
緊急事態における強制措置については、自国の存亡に関する危機的な状況、即ち、敵国からミサイル攻撃を受けたり、自国に敵軍が上陸するような場合には一定の根拠を認めることはできます。国民を避難誘導したり、攻撃を受けた場合、被弾に際して被害拡大の可能性のある施設などを撤去する必要があるからです。この点、局所的となる自然災害の方が必要性が高いとは言えないかもしれません。否、今般のコロナ禍のように、ロックダウンが経済活動を停止させたり、ワクチンの効果や安全性に疑いがある場合には、政府による強制的な措置は、むしろ国家が自国民の生命、身体、財産を損ねかねないという問題も生じます。
同宣言の発令条件の曖昧性からすれば、首相による恣意的な決定もあり得ますので、首相への権力集中に対する懸念の声が強まるのも当然です。もっとも、こうした批判や懸念に対しては、国会の関与を根拠とした反論もないわけではありません。確かに、緊急事態宣言の発令に際しても、国会による事前・事後の承認等が定められており、内閣に対して国会の制御機能が働くように設計されています。しかしながら、これらの安全装置も、実際に働くのかどうかは怪しい限りなのです。(おわり)
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