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2022-08-29 00:00
(連載1)緊急事態条項への尽きない疑念
倉西 雅子
政治学者
憲法改正と申しますと、先ずもって誰の頭にも浮かぶのは、日本国憲法第9条ではないかと思います。同条は、戦争放棄を定める故に日本国憲法の最大の特徴であり、この条文があってこそ、戦後長らく日本国の平和が守られてきたと信じる国民も少なくありません。その一方で、冷静崩壊後の中国の急速な軍事的台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発問題は、日本国の安全を脅かしております。日本国を取り巻く国際情勢が著しく変化しているため、国民世論も、憲法改正賛成に大きく傾いてきています。このまま憲法改正の流れが加速し、政治レベルでも改正手続きに入る勢いであったのですが、ここに来て、雲行きが怪しくなってきています。何故ならば、コロナ禍を機に緊急事態条項の新設という、新たな問題が浮上してきたからです。
‘新たな問題’とは申しましても、平成24年に公表された「自民党憲法改正案」には、既に緊急事態条項は、第98条並びに第99条(第9章)として書き込まれています。新設されたこれらの条文を読みますと、いささか背筋が寒くなります。何故ならば、これらの緊急事態条項は、政府によって濫用されかねない‘隙’に満ちているからです。
なお、自民党は、今般の憲法改正に際して強調している「4つの変えたいこと」の一つに「国会や内閣の緊急事態への対応を強化」を挙げています。現在公開されている自民党のウェブサイトでは、同条項新設の必要性について将来における南海トラフ大地震や首都直下地震への備えとして説明しています。その一方で、「自民党憲法改正案」では、想定される事態として「我が国に対する外部からの攻撃」を一番目に挙げており、地震等の災害時については二番目の「内乱等の社会秩序の混乱」に続いて三番目となります。この順序からしますと、2012年にあって想定されていた緊急事態とは安全保障上の有事であったことが分かるのです。このことは、10年前と今日では緊急事態に関する認識の比重に順位に変化が生じており、今日にあっては、災害時における同条項の活用が現実味を帯びてきていることを示唆しています。マスメディアも、頻繁に南海トラフ地震の発生が近づいているといった警戒報道を繰り返しています。あるいは、多くの国民が懸念しているように、大地震の想定は国民を納得させるための‘表看板’に過ぎず、真の狙いは、今般のコロナ禍といった疫病の蔓延をも緊急事態に含めることで、ロックダウンの強行やワクチンの強制摂取に憲法上の根拠を与えたいのかもしれません。
いささか回り道をしましたが、憲法改正後に緊急事態の宣言がなされる事態として、安全保障上の有事に加え、自然災害という想定されていることを踏まえ(内乱等については、中国や北朝鮮系の国内居住者による蜂起、あるいは、政府に対する国民の反乱への備え?)、以下に、同条項の危険性について検討してみることにしましょう。(つづく)
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