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2022-08-05 00:00
参院選でも明白、歴史的使命終えた先進国共産党
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
共産主義イデオロギーである「マルクス・レーニン主義」(「暴力革命とプロレタリアート独裁」)の理論と実践)の影響力は、1991年のソ連崩壊以後、世界的に著しく退潮した。日本共産党も例外ではない。日本共産党はその党勢が年々衰退し、現在では党員数は1990年の50万人から27万人と半減した。機関紙「赤旗」発行部数も1980年の350万部から現在では100万部と3分の1以下に激減した。そのうえ、党員の高齢化が進み、「世代的継承」にも大きな課題を抱えている。こうした共産党の党勢衰退により、共産党は2016年の参院選比例得票数601万票、得票率10・7%から、今回の参院選比例得票数361万票、得票率6・8%へと著しく減少し、当選者も2016年の6名から4名に減った。組織政党ではない「れいわ新選組」の比例得票数が231万票、得票率4・4%、当選者3名であることを考えると、組織政党である共産党にとっては深刻な事態と言えよう。
このような共産主義及び共産党の退潮は、1991年のソ連崩壊以後、日本共産党のみではなく、世界的現象である。すなわち、西欧先進資本主義諸国の共産党は、イタリア共産党、フランス共産党など例外なく退潮し、議会における議席数も激減した。そのため、イタリア共産党は、ソ連崩壊以後、いち早く共産主義イデオロギー(「マルクス・レーニン主義」)を放棄し、社会民主主義政党の「左翼民主党」になり、1996年中道左派連合「オリーブの木」と連携して政権を獲得した。共産主義及び共産党退潮の第一の原因は政治的原因である。崩壊した旧ソ連や中国型の共産党一党独裁(「プロレタリアート独裁」)による市民的自由や基本的人権の抑圧を、欧米や日本などの発達した先進資本主義諸国の労働者階級を含む国民は到底容認しないからである。
共産主義及び共産党退潮の第二の原因は経済的原因である。マルクスは、主著「資本論」で「資本主義が発達すればするほど労働者階級は窮乏化する」(「窮乏化法則」)と説いたが、欧米や日本などの先進資本主義諸国では労働者階級の窮乏化が起こらず、逆に労働者階級の生活水準が向上し、階級闘争による社会主義革命の条件が消滅した。具体的には、日本では男女の賃金格差や非正規雇用の増加などの課題はあるが、情報通信産業など生産力の発展による持続可能な経済成長で、失業率が低下し(2022年2・6%総務省)、名目賃金も年々上昇し(2022年2・11%連合)、年金・医療・介護などの社会保障制度も整備されている。そのため、労働者階級の間でもマイカー・マイホーム・各種電化製品・海外旅行なども普及し、生活水準が向上した。これは他の先進資本主義諸国でも同じである。すなわち、マルクスの「窮乏化法則」は先進資本主義諸国では破綻しているのである。
このように、マルクスによれば、社会主義革命の主体である労働者階級の窮乏化が起こらず、逆に生活水準が向上すれば、資本家との階級闘争も激減するから(厚労省によると2019年の労働争議件数は数十件にすぎない)、社会主義革命が起こらないのは歴史的必然であり、構造的問題であると言える。したがって、「先進国革命」はもはや構造的に不可能である。「労働者階級の窮乏化」という社会主義革命にとって最も重要な条件が欧米・日本などの先進資本主義諸国では消滅しているからである。先進資本主義諸国では、「能力に応じて働き必要に応じて受け取る」(マルクス著「ゴーダ綱領批判」)との共産主義の理想も、失業率が低下し、生活水準が向上した先進資本主義諸国の労働者階級にとっては、もはや魅力を失っている。そうだとすれば、欧米・日本など先進資本主義諸国の共産党は、「労働者階級の地位向上」と「労働者階級の生活水準向上」という歴史的使命を終えたと言えよう。
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