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2022-07-05 00:00
(連載2)前日銀副総裁が示した「出口論」
中村 仁
元全国紙記者
もっともアベノミクスは第三の矢として成長戦略を掲げています。安倍氏は16年9月、訪問先のニューヨークでの公演で「私はドリルの刃を研ぎ澄ましている。日本経済の構造を変えるために、ドリルの刃は高速回転中です」と、強調しました。これも啖呵を切るの類です。中曾氏は「安倍氏は構造改革を阻む岩盤に挑む姿勢を示した。第三の矢による強力な援護射撃が活路を開くこと願っていた」と、心情を吐露します。安倍氏の「ドリルの刃」は高速回転するどころか、圧力を簡単にかけやすい金融緩和と、それとセットになった財政拡張にもっぱら頼ったのです。「やさしいことを深く」という意味では、主要国の中でも群を抜く財政膨張、異次元緩和を早く正常化しないと、産業・企業が死に物狂いになって活路を見出そうとしない。中曾氏にはそう主張してほしかった。
最終章の「金融政策の今後」で、「いつか迎えるであろう大規模な緩和からの正常化という点では、米国の金融政策の過程が参考になる」とし、出口論を語っています。「米FRB(中央銀行)は、21年11月から資産買入額を縮小(資金供給の削減)を開始し、金融政策の正常化に向けて歩み始めた。出口政策が市場の憶測を呼び、混乱を招くことを回避するため、14年9月には、金融制裁の基本的な考え方を整理した『金融政策の正常化の原則と計画』を発表していた」と。さらに中曾氏は「実際の利上げ開始は一年以上後だったので、入念な準備作業の一環として策定したと考えられる」と述べ、周到な事前準備と具体的な手法の明示が必要であることを強調しています。日本の政策当事者は「注視している」「懸念している」「適切に対処する」を繰り返すばかりです。日米の政策対応に大きな差があることを痛感します。
「主要国は危機対応のために『帰らざる河』を既に渡った」と。『帰らざる河』は「流れが激しいため帰還者がいない」河です。だから「ニューノーマル(正常化)への移行過程は長い時間をかけたものになる」と。主要国の中でも、日本の対応はケタが違います。懸念、注視を連呼するより、具体的な手法をどう考えていくのかを隠さずに示すことです。 中曾氏は「正常化の前後では、日銀の収益の振幅が大きくなる。『債券取引損失引当金』で対応することも必要だ」と説明します。この『引当金』制度は2015年10月に、「いづれ出口に向かう時に備えて日銀の財務体質を強化することを目的として措置だった。あまり注目されなかった」と。
それからもう数年も経つ。「出口どころではない」という政権側の声に、「出口論」は否定されたり、かき消されたりです。安倍元首相は「日銀は政府の子会社」と大声を上げ、国債膨張は気にするなと圧力をかけています。この回顧録を安倍氏は熟読してほしい。(おわり)
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