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2022-07-04 00:00
(連載1)前日銀副総裁が示した「出口論」
中村 仁
元全国紙記者
黒田東彦氏と中曾宏氏は13年2月、日銀の正副総裁に就任し、アベノミクス・異次元金融緩和政策を推進しました。中曾氏は18年3月、5年の任期が切れて退任しました。同氏による回顧録「最後の防衛線/危機と日本銀行」(日経出版)が出版されました。バブル崩壊(1990)後の金融危機対策から書き始め、異次元金融緩和の出口論に至る700頁もの大著です。難しい金融政策論を達意の文章でやさしく説明しており、日銀マンの教科書にもなりうると思います。政治家にとっても、金融、政策の限界を知るうえで、有益な著書です。
作家の井上ひさしが「難しいことをやさしく、やさしいことを深く・・」という名言を残しています。それに従えば、この本は「やさしく」書かれていて、中曾氏の心象風景も随所で書き込まれ、人柄もしのばれる。では「やさしいことを深く」となると、不十分な叙述に終わっています。副総裁という立場では、安倍・黒田ラインが敷いたアベノミクス・異次元緩和政策に苦悩しながらも、執行部隊として反対するわけにもいかず、異次元緩和政策の評価という肝心な論点はぼかしています。印象的な場面は、黒田総裁が就任直後の13年3月、本店の大会議室に職員を集めた就任挨拶です。
「日銀は岐路に立たされている。日本経済は15年続きのデフレに悩まされている。物価の安定の実現(デフレ脱却)は中央銀行としての日銀の責務だ。世界中で15年もデフレが続いている国はひとつもない。現行日銀法の施行(98年)以来、主たる使命を果たしてこなかった」。 そこまで言われると、「会場は静まり返り、空気が凍りついたのを感じた」と、中曾氏は描写しています。黒田氏は総裁就任9年になります。総裁職が自分に回ってきてもう9年、異次元緩和の幕は未だに引けない。就任挨拶で啖呵を切った黒田氏は今、何をどう感じているのだろうか。
黒田氏は、政策転換を始めた欧米とは真逆の手法を維持するとしている。消費者物価は5月、2・1%上がり、生鮮食品を含めると2・5%に達した。金融政策の効果ではなく、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵略という感染症と地政学的な異変により、「2%目標」は達成されてしまった。異常なほど膨張させた金融政策、1000兆円を超した拡張的な財政政策を約10年続けても、日本経済は低迷しています。金融・財政政策でデフレ体質の転換を図ろうとしたこと自体が誤りではなかったのか。この著書も「やさしいこと(いまだに続く経済停滞)を深く」という点での掘り下げ方が足りない思います。(つづく)
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