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2022-04-01 00:00
(連載2)侵略を予防する仕組みを考える
倉西 雅子
政治学者
誰の仕業であれ、虐殺といった人道的介入の根拠となる出来事が発生してしまいますと、軍事介入を止めることは難しくなります。また、たとえ双方による話し合いの場が設けられたとしても、合意が成立するまでの間、虐殺並びにそれを口実とした侵略は続くことでしょう。合意を手段とする侵略予防の制度を設けるならば、それは、虐殺等が起きる根本原因となる多民族混住地域の統治制度の問題を平和的に解決する仕組みを作る必要があります。少なくとも人道介入を口実とする侵略の予防ツールとして合意を手段とする国際制度を設けるアプローチは、極めて難しいと言えましょう。
それでは、人類が獲得した最も理性的な手段である法による解決はどうでしょうか。法に依る解決の最大の問題点は、裁判は、事件が起きてからしか開くことができない点にあります。今般のウクライナ危機では、国際司法裁判所は、ロシアに対して軍事侵攻の即時停止を保全措置として命じましたが、これは、いわば仮処分です。ところが、現行の制度では、仮処分命令を確実に執行する強制力が備わっていませんので、ロシアによって完全に無視される格好となりました。そして、裁判所による事後的な保全命令そのものは、’侵略の予防ルール’でないことは言うまでもありません。
仮に、法的な手段によって侵略を予防できるとすれば、侵攻の口実とされる’事実’の真偽を確かめる任務を担う、国際警察・検察機関の設置ということになりましょう。即ち、何れの国も、自国内における国家犯罪行為が疑われ、他国からの訴えがあった場合には、同機関の調査団を即時に受け入れる義務を負うものとするのです。その一方で、訴えた側の国も、軍事介入を控えることが義務付けられます。国連安保理は、事実上、常任理事国によって仕切られている政治色の強い機関ですので、同機関は、権力分立(司法の独立)の原則に従い、国連安保理とは切り離した別機関として創設し、中立・公平な立場を保証する必要もありましょう。そして、調査の結果、国際司法機関によって違法性や非人道的行為が確認された場合には、安保理は、裁判所による命令、あるいは、判決の執行機関に徹することとなります。同執行は、拒否権の行使を含め、政治的な多数決に依らない必要があります。
いささか長くなりましたが、以上に、ゼレンスキー大統領の日本国に対する提案について考えてみました。人類史の大局からしますと、‘侵略の予防的ツール’にとどまらず、あらゆる紛争を解決し得る国際司法制度の構築を急ぐべきなのでしょうが、新たなシステムの確立には時間を要しますし、暴力主義を是として国際法を踏みにじる国や組織もありますので、当面の間は、最初に述べた相互的な核の抑止力を利用するのが現実的な対応なのかもしれません。何れにしましても、新たなシステムを考案することは、ウクライナ危機のみならず、現在、人類が直面している様々な問題への適切な対応という意味においても、意義のあることのように思えるのです。(おわり)
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