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2022-03-24 00:00
資源・食料価格の暴騰がもたらす人道危機
大井 幸子
国際金融アナリスト
ウクライナ危機で、ロシアそしてウクライナが生産する資源や穀物の価格が上昇しています。下のグラフは、戦争当事国ロシアとウクライナの主要な輸出品目の値上がりを示しています。赤い棒グラフは2022年の年初からの値上がり率を示しています(左縦軸)。青い点は2021年年初からの値上がり率を示しています(右縦軸)。
出所 Oxford Economics (2022年3月14日)
昨年から原油とガスの価格は2倍以上跳ね上がっています。石炭価格が今年の年初から9倍に急騰、小麦価格は69%、トウモロコシ価格は56%も上昇しています。日常生活に不可欠な燃料や食料価格が一気に上昇し、市民生活に大きな影響を与えています。さらに、ウクライナやロシアの小麦はアフリカ諸国に輸出されています。今後、こうした輸入国では食料価格が高騰し、多くの国民が飢えに苦しみ、政情不安に陥ると予想されます。それでは、資源の豊かな国であればウクライナ危機の影響を受けないで済むのか。例えば、ブラジルでは石油もガスも出ます。しかし、ブラジルは原油を輸出し、精製された石油を輸入しています。つまり、国内に精製技術や設備がないため、資源があっても他国に依存し、自国の経済成長につながっていかないのです。
今、中国がロシアから資源を買い取り、自国に溜め込んでいます。では、資源を溜め込めば経済成長できるかというと、それほど簡単ではありません。小室直樹氏は『資本主義中国の挑戦』(1982年)に次のように記しています。「(中国やソ連が)「命令さえすれば社会現象が思うように動く」と信じているようではマルクスの学説も忘れている証拠だ。・・・資源を使うためには、まず産業の運営にシステム的思考法を導入する必要がある。資源というのは経済的な意味をもたせて初めて使用可能となるものだからである」(p. 144-5)。さらに、小室氏は、中国はレオンチェフが創案した「産業連関分析」を学ぶ必要があると言います。産業関連分析とは経済学の基本であり、簡単にいうと「風が吹けば桶屋が儲かる」よりも実際の経済ははるかに複雑であり、「システム的に経済全体を見通して、無限の波及効果の行き着く果てまで考慮に入れないと、とんでもない『予想外の結果』が生起するかもしれない」(p.143)と述べています。
今回のウクライナ危機で、特に欧州では、ウクライナからのかつてない規模の難民が流入し、人道危機が生じています。また、先進国のみならず、これまでBRICsとして成長を遂げた中進国、そして、アフリカ諸国にも大きな経済的損失が生じます。どこの国においても貧困層の困窮化は世界全体でかつてない規模の人道危機になるとみられます。今回の戦争による無限の波及効果の行き着く先は、まさに、人道危機と言えるでしょう。
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