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2022-03-12 00:00
「ゴムスタンプ会議」としての性格を鮮明にした中国の全人代会議について
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
まず3月9日付の拙稿末尾で提起していたウクライナ侵攻に従事しているロシア軍けん制についてであるが、極東ロシア軍は10日、北方領土などで防空ミサイル演習を実施したほか、10~11日未明にはロシア海軍艦艇10隻が津軽海峡を通過したとされ、日本や在日米軍は逆にけん制される形となった。ここから明らかなのは、ロシア軍の最高指揮官たるプーチン大統領はやはり病人でも狂人でもなく、冷静にユーラシア大陸、世界全体に目配りしているということである。そんな中、3月5日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代)は11日、1週間の会期を経て閉幕した。最終日に採択された「政府活動報告」等にウクライナ情勢に関する言及があったのか、あるいは全国から集まった「人民代表」(代議員)の中でウクライナ情勢に関する討議はあったのか、以下みていこう。
結論から言うと、今回の全人代会議においてウクライナ情勢に関する討議は全く確認出来ず、たとえ部内で何らかの議論があったとしても非公開となった。したがって、こうした議論の内容が反映される「政府活動報告」の92か所で補充・修正がなされたのだが、その中身は経済、イノベーション(中国語:創新)、民生が主だったとされた。3月11日午後、向東国務院研究室副主任(恐らく政府活動報告起草・執筆に関与)が報告修正の事実について記者会見し、「今年の報告は1万6000字余りとなり、構成全体の制限を考慮して採用出来なかった建議もあった」としながら「国家として未だ明らかでない政策に関わる、あるいは具体的な政策措置や活動に属する建議は関連部門に転送した」と公表しただけだった。では、全人代終了後、定例の記者会見に臨んだ李克強総理からウクライナ情勢について発言はあったのか。「中国は従来、独立自主の平和外交政策を採択してきた」と切り出した李総理は、ウクライナ情勢について「各国の主権と領土保全は尊重されるべきであり、各国の合理的な安全保障上の配慮も重視しなければならない」とし、「平和が回復されるよう国際社会とともに積極的な役割を果たす」と主張したが、3月7日の王毅外交部長の発言同様、紛争地域への特使派遣や当事者間の仲介など中国として実行可能な、具体的な行動への発言はなかったのである。その理由は何であろうか。
それは、2022年に入り、当の中国が「内憂外患」こもごも至る状況にあるからだ。対米関係に加え、風雲急を告げるウクライナ情勢などの「外患」は言うまでもないが、「内憂」国内問題で「ゼロコロナ」を掲げながら中国はCOVID-19を完全に撲滅していない。昨年12月15日、通算10万人に到達した感染者は3月2日、11万人台を計上した。そして、6日には中国の広東省・吉林省・山東省など14省・市・自治区で感染者214人に無症状感染者312人を併せて526人という2020年COVID-19発症以来最大の本土感染者が出ると、これ以降ほぼ連日の記録更新となり11日現在、山東省・吉林省・天津市・広東省など17省・市・自治区に感染者476人+無症状感染者1,048人=1,524人の本土感染者が確認されている。中国は無症状感染者を感染者数に計上していないから通算の感染者は11万人台に止まっているにすぎないのである。しかし、本来なら3月27日に予定されていた広東省に隣接する香港特別行政区の行政長官選挙は、同地の疾病状況深刻化(感染者通算2月の2万人台が、3月の26万人台まで激増)で5月8日に延期されている。こうした緊急報告を受けている習近平国家主席(党総書記)が全人代期間中、強調したのが「エネルギー、食糧、国家安全保障」という「三大安全保障」であったことは興味深く、各種対露制裁が中国に及んでくるのを懸念しているのは明らかである。「平和で安定した内外環境」の下、本年下半期に第20回中国共産党全国代表大会(二十全大会)を開催しようとした習近平の当初の目論見は外れてしまい全人代期間中、中国中央テレビ(CCTV)に映し出された習の表情がどこか不満気、不機嫌に見えたのは小生だけであろうか。
最後に、中華人民共和国憲法に「国家の最高権力機関」と規定されている全人代であるが、例年の会議どおり否決された議案は無く、政府活動報告や経済・財政報告など全ての議案は承認・可決された。しかし今回、CCTVや香港紙で議案に対する「反対票・棄権票」の数を確認しようとしたら、TV画面から削除されて紙面には報道も無かった。言葉の真の意味で今や、中国の全人代会議は「ゴムスタンプ会議」(議案へ賛成するだけの会合)に堕したのであり、その実態は人民大会堂に集結した「人民代表」数千人の“プッシュボタン会議”(議場席に設置された賛成・反対・棄権ボタンを押すだけの会合)と化していた。今後、こうした政治機関に対し、例えば対露非難決議や和平アピールを期待しても無駄であろう。
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