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2022-02-23 00:00
(連載2)朝日新聞OBの安倍政権検証本を読んで
中村 仁
元全国紙記者
つまり異次元緩和、財政出動をセットにした壮大な実験が失敗したことで、その間違いが証明されたことは成果だとみている。日銀の国債購入で財政に歯止めがかからず、国債発行額がGDP比で2・5倍まで増加し、IMFから警告を受けています。成果というには、高すぎる授業料を払っています。貴重な失敗から大きな教訓を得たというつもりなのでしょう。教訓というには、積みあがった膨大な借金(国債)、異次元緩和の出口(政策転換)をどうしていくのか。そこを検証することが絶対的に不可欠です。マクロ経済政策について、船橋氏は「消費増税を2回行い、5%引き上げた。安倍政権は増税政権だった」との評価を下しています。増税を嫌い、見送りの是非をわざわざ選挙で問おうとしたという批判とは真逆です。「増税政権」なら、税収増によって財政状態は改善するはずです。そうはなっていません。結果は逆です。その検証が抜けています。
「外交・安全保障」(第4章)については、新保慶大教授が「日本の戦後史の中でも傑出した成果を挙げた」と激賞しています。平和安保法制の整備、トランプ米大統領との信頼関係、プーチン露大統領との多数の首脳会談などは注目に値しても、「傑出した成果」とは言い過ぎでしょう。「TPP・通商」(第5章)で、寺田同志社大教授は「TPP(環太平洋パートナーシップ)への参加、世界でも有数のFTA(自由貿易協定)国家に」と、評価しています。国内の反対勢力を説得し、そこにこぎつけるまでの安倍政権の苦労は並大抵ではなかったでしょう。それがどうでしょう。新型コロナの世界的感染拡大で、サプライチェーンがずたずたにされ、行き過ぎた経済のグローバリゼーションが裏目に出た結果だとの認識が高まっています。海外経済拠点の国内回帰、過度な輸入依存度の高まりのリスク対応などが今後の政策課題になっています。手放しに「世界有数のFTA国家」などと自賛できない。「グローバリゼーションの限界」の認識と対処に重心がかかってきました。
「官邸主導/強力で安定したリーダーシップの条件」(第3章)で、中北座長は「地方創生や1億総活躍社会などは今井首席秘書官がアイディアを作った。経産省出身者が活躍した」と。安倍政権の掲げたスローガン、看板は数多く、行き詰まると看板を掛け替え、目先をくるくる変えてきたのが特色です。経産省が得意とする手法です。プーチン大統領を引き込もうとして、いくつもの日露経済協力プロジェクトをぶち上げたのは経産省的なアイディアでしょう。
ウクライナ問題、米ロ関係の悪化、オホーツク海重視のロシアの安全保障政策などによって、北方領土問題の前進はもうあり得ない。長期政権を検証するなら、こうした視点は欠かせないのです。(おわり)
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