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2007-08-24 00:00
連載投稿(3)レント・シーキングとレント・セッティングの問題
池尾愛子
早稲田大学教授
『現代中国の経済改革』の第3部は「マクロ経済と社会階層の問題」である。第9章「新しい社会保障システムの建設」では、いわば「分竃喫飯」体制に代わる安全網(セイフティネット)の構築、つまり年金制度、失業保険制度が検討されている。第10章「転移期のマクロ経済政策」を見ると、中国では、インフレ対策、マネーサプライ管理が重要視されてきたことがわかる。
第11章「転移期の社会関係と政府機能」は大変重要である。中国では、革命ではなく、増分改革によって漸次的に市場への途を歩んできたものの、インフレ、行政の腐敗、所得分配の不平等などの問題が激化すると、社会の安定性が脅かされ、改革の進行に対する障害となりうると認識されている。レント・シーキングの問題がここでの焦点である。計画と市場の2体制が浸透する状態においては、「一部の権力をバックに持つ者が体制の隙間と抜け穴を利用して財産をつくり金持ちになった」、つまり、「市場にルールが欠け、行政権力が依然として重要な役割を果たしている状態を利用して、転移期の経済体制の混乱の中でどさくさにまぎれて一儲け(『混水摸魚』)した」とされる。
それだけではない。「増分改革」の既得権益者たちは、「市場の混乱と行政権力が市場に広範に介入する状態の維持ひいては拡大を望む」『第3の社会勢力』となり、レント・シーキング活動によってその混乱を増幅させたとされる。つまり、中国のレント・シーキング者たちは市場の混乱から利益を得ているため、混乱を収拾する意思はなく、新たな混乱を作り出すレント・セッティングを行う者さえ出てくるのである。著者たちは、中国のような発展途上国においては、政府はまず市場を育成すべきこと、すなわち、一方でルール化された市場秩序と法制度を構築しかつそれを盛り込んだ(国民的)近代化教育に努力し、他方でそれを政府自身の行為の制約とすべきことを説く。後者に関連しては、政治改革の必要性が強調される。増分改革という漸次的改革に付随する困難が浮き彫りにされ、それと同時に、良心(と正義の怒り)をもつ研究者や政府当局者が切り抜けるべき障壁が解明されている。
本書では、20世紀の経済学の理論的成果が活用され、またそれを学ぶことができるようにコラム欄が設けられている。訳文も読み易く、現代中国の経済と制度改革の現状を知るためには最適の書物である。本書からも、発展途上の国内経済を見る限り、市場経済の確立、貿易自由化は望ましいとわかる。本書の範囲を超えるが、自由化にともなう避け難い弊害が顕れるのは、グローバル経済において相対的な地位低下をこうむる先進国経済の内部においてである。中国も既に東南アジア諸国からキャッチアップされつつあり、自由貿易がすすむと周辺諸国では賃金という生産要素価格は常に平準化(均等化)の圧力を受けることになる。グローバル化は避けられない現実であり、中国が『混水摸魚』など解決すべき難問をたくさん抱えているだけではなく、先進国の国内経済でも現実を直視した問題対応が必要になっているといえる。(おわり)
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