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2022-01-15 00:00
米軍基地支援は「思いやり」との錯覚が続く新聞
中村 仁
元全国紙記者
政府は来年度予算案を過去最大の総額107兆6000億円、防衛費も過去最大の5兆4000億円(1・0%)とすることを決めました。防衛費の一部である米軍駐留経費の日本側負担は5年間で1兆円超(来年度分2100億円)です。この日本側負担の通称は「思いやり予算」で、40年以上もそう呼ばれてきました。貿易黒字の増大、物価高、日米安保ただ乗り論を背景に、当時の金丸防衛庁長官が1978年、「円高でもあるし、米軍に対する思いやりというものがあっていい」と、浪花節的な発言をし、妙な俗称が定着しました。これに対し「安全保障は思いやりの範疇には入らない」「国民も米軍への思いやりだと錯覚する」「米側の文書ではホストネイション・サポート(HNS)となっており、思いやり予算は英訳ができない日本語にすぎない」という批判が聞かれました。
ホストネーションは「米軍・基地の受け入れ国」、サポートは「支援、援助」という意味です。字義通りに「在日米軍駐留費の日本側負担」としておけばよかったのに、金丸氏の理解では「思いやり」だったのか。私も呼称を是正するよう指摘してきました(「『思いやり予算』は思いやりではない」2021年3月4日付e-論壇「議論百出」)。やっとそれが実現します。政府は、これまでの『思いやり予算』という通称を『同盟強靭化予算』に改めることになりました。「国土強靭化予算」などで使われる「強靭化」を防衛費にも使ったのでしょう。今後は、厳しい安全保障環境の中で、日米共同で抑止力の強化につなげていくといいます。予算もこれまでのように人件費や光熱水費などの肩代わりが主だったのを、訓練費、訓練資機材調達費などを含める。
日経新聞は「思いやりを改め、強靭化予算/日米同盟の質的転換を象徴」との見出しで、大きな解説記事(2021年12月22日)を掲載しました。他紙に比べ、的確な判断でした。もっとも「質的な転換」の対象が融通無碍に広がることは好ましくありません。読売は「米軍駐留経費で日米合意/機材費新設、防衛力強化に重点」(同22日)との記事を載せ、文中で林外相の発言を紹介しています。「『思いやり予算』という俗称は合意内容を適切に反映していない」と。やはり日経のように俗称廃止を見出しにとらないと、記事の意図がよく伝わりません。そこまではよかった日経が24日になると、一面トップ記事「予算案最大の107兆円」で、「在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)は・・」と、「思いやり」が再登場です。あれあれっ、です。防衛記事は防衛担当記者、予算案の記事は財務省担当記者が書きますから、両者の連携が不十分だったのでしょう。
読売は予算詳報特集の中で「米軍駐留経費の日本負担(思いやり予算)」と、これまた「思いやり」という表現です。「強靭化予算」という財政用語は主観的すぎて使いにくいにせよ、編集の現場ではまだ「思いやり」とい錯覚から抜けきっていないのでしょうか。このような場合は、紙面に「お断り」を載せ、「今後は思いやり予算という表記をいたしません」と書き、その後は校閲記者が目を光らせする。そうすべきだと思います。
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