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2022-01-03 00:00
習近平、1989年の天安門事件処理を正当化か
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1月3日付の朝日新聞によると、中国で民主化を求める学生らを軍が弾圧した1989年の天安門事件について、習近平国家主席が「(共産)党と国家の生死存亡をかけた闘争に勝利した」と当時の党の対応を高く評価したという。昨年11月の中国共産党中央委員会第6回総会(以下、党6中総会と略)における演説内容で、2022年1月1日発行の党理論誌『求是』第1号が公表した。しかし、党6中総会における演説内容の公表はこれが初めてではない。2021年12月1日発行の『求是』第13号にも習主席の「歴史決議」説明が公表されており、小生は同説明を参考に拙稿「現代中国の盲点十論」をまとめたからだ。では、今回の演説公表の意図等は一体何であろうか、以下検証してみよう。
まず党6中総会は昨年11月8日に開幕し、当日に習国家主席(党総書記)直々の「歴史決議」説明が行われた。そして、総会出席者による討議が行われ、閉幕日の11日に「歴史決議」はスピード採択された。今回、公表されたのは決議採択後の「党6中総会精神」を総括した習主席の「ダメ押し」演説である。「歴史を鏡として未来を拓き、しっかり努力し勇気をもって前進しよう」と題する演説で、習主席は主張した;「1980年代末から90年代初めにおいて東欧激変、ソ連共産党崩壊、ソ連解体で世界の社会主義は重大な挫折に直面し、我が国にも1989年春夏の変わり目、酷い政治的な騒ぎ(中国語:政治風波)が起こった。我々の党は常に人民に依拠し、強力な意志と歴史的な責任感をもって果断な措置をとって党と国家の生死存亡をかけた闘争に勝利し、西側諸国の“制裁”圧力に抗し、中国の特色ある社会主義の正しい進路と改革発展の正しい方向性を確保した。“中国の社会主義が倒れなければ将来、世界で社会主義はずっと生き残るであろう”と鄧小平は語った。自分も、もし中国共産党の指導と我が国の社会主義制度もドミノ式の変化の中で倒れたら、あるいはその他の原因で失敗したら、社会主義という実践は長期にわたり暗黒の中で徘徊し、中華民族の偉大な復興のプロセスも確実に中断されていたと語ったことがある。」
今回、公開された演説の中身に新味は無い。1989年以降30年以上堅持された、天安門事件に関する党の公式見解を逸脱するものでもない。しかし、敢えて指摘するならば習演説では「動乱」や「反革命暴乱」という刺激的な言葉が使用されない一方、当時福建省の地方幹部として無聊な日々を送っていた習近平の立場からすれば、首都北京で発生した天安門事件評価に触れなくても構わないのではないか、自分の手を汚さなくてもよいのではないかということである。それが証拠に、当時の習主席の行動を部下らが振り返る新聞証言集が書籍化された『習近平福建にて』(中国語:習近平在福建)が2021年7月末発行されながら、天安門事件対応に関する記述が丸ごと削除されたという報道(同8月1日付読売新聞)が存在するからだ。同報道によると、軍による弾圧に先立ち、浙江省の学生らが隣接する福建省に入ろうとした際、習近平が断固阻止するよう指示したことや、事件後に運動参加者への調査を公安幹部に命じたとする件が書籍化の段階で割愛され、民主化運動の弾圧に関与したとのイメージが広まることを懸念した当局、というか習近平自身の判断をうかがわせたからだ。果断な措置を肯定する勇敢な領袖(指導者)のイメージか、それとも歴史の改ざんも厭わない慎重な核心(管理者)のイメージか、一体どちらが習近平の本質なのだろうか。
小生は、習近平には後者のイメージが強いと考える。「無謬性」という神話に縛られ、中国共産党にとって不都合な、「負の歴史」はあたかも無かったように扱う、あるいは党に都合の良い解釈で「正史」を上書きしていく、言わば「歴史修正主義」に基づく言動が習近平には顕著だからである。例えば昨年12月から猖獗を極めるCOVID-19によって内陸部の要衝・陝西省西安市は、2020年1月の湖北省武漢市以来のロックダウン(都市封鎖)状態にありながら、習近平からは何の措置も発言も公表されていない。要は習にとって対COVID-19「闘争」たる防疫活動は、一昨年末で総括も表彰も終わっているからだ。このままでは将来、世界を巻き込んだパンデミックが単なる「衛生風波」疫学上の騒動として扱われ、中国現代史からも消えて行く運命になるであろう。2022年早々、いささか暗い見通しとなったが、eー論壇「議論百出」への投稿は2020年2月以降3年目に入る。今後とも宜しくお願いします。
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