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2007-08-23 00:00
連載投稿(2)中国の企業統治と財政の改革に向けて
池尾愛子
早稲田大学教授
『現代中国の経済改革』の第4章「企業改革」は、1937年以降に西側で彫琢された企業行動に関する理論のオンパレードで、R・H・コースの「取引費用」概念の検討から始まり、情報の経済学、(不完全)契約理論、ゲーム理論の成果が取り入れられた。「企業は一種の制度的配置として、実質上、企業に投入される各生産要素の所有者のあいだの一組の契約関係の連結点(nexus)である」との観点にたち、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の問題を、「エージェンシー問題」――代理人と委託者との間の潜在的利害の衝突――ととらえて、逆選択(ここでは株主の選択ミス)とモラル・ハザード(ここでは経営者の道徳的陥穽)の存在により、経営者が会社の資源を利用して自己利益を追求する可能性があると説かれる。改革の過程では、腐敗を防ぐインセティブ(誘因)両立性が欠けたり、インサイダー多数の取締役会が新設されたりする問題があったという。
第5章「民営経済の発展」は、中国企業部門の転移、すなわち、全社会を1つの大企業(社会大工場あるいは国家シンジケート)のようなユニットとみなすものから、ハイテク分野をふくむ現代企業への転移が考察される。国有制崇拝の克服を訴えながら、個人経済を開放する制度改革をおこない、先進技術や管理経験(経営ノウハウ)の獲得をめざして外国企業直接投資を積極的に引き込んできたことがわかる。ただ、専制制度下では行政機構が資源配分の権限を握っていたという事情があり、改革の過程でレント・シーキング(権力を利用した超過利潤の追求)が広範に存在して、商業道徳の腐敗を招くなど市場秩序が著しく損なわれていることに対する著者たちの心痛も伝わってくる。
第6章では「銀行制度改革と証券市場の発展」が分析され、中国で結果として国際標準に合わせる改革が忍耐強く行われてきたことがわかる。著者たちは、中国の証券市場の不充分な面について「企業債券市場が未熟で、株式市場の位置づけが正しくなく、投機が過度で、監督管理が不充分という4つの面にきわだって現れている」と分析している。法律で犯罪行為とされても、虚偽陳述、インサイダー取引、市場価格操作が時として横行するという。そして、その主要原因は「国有企業の所有権がはっきりしないこと」「所有者不在」にあると断じている。
第7章「財政税制改革」では、まず西側の経済学教科書にある公共財の供給などの政府の役割、市場の失敗と政府の失敗が論じられた。そして1979年以前の「社会大工場」という計画経済下の財政税制では、政府財政と国有企業財務が合一されていたものの、部門間や企業間で財政負担の格差が大きかったことが指摘されている。1980-93年にも、北京、天津、上海の3直轄市以外の地域では、「分竃喫飯」(かまどを分けて飯を食う)体制が布かれ、1988年にはさらに「財政全面請負制」として固められた。1992年に分税制が一部で試験的に導入され、1994年にようやく財政税制の全面改革が実施された。その基本的狙いは、「統一税法、公平な税負担、税制の簡素化、合理的分権という原則に従って税制を標準化し、市場経済の要求に合致した税制度を確立し、分配関係を合理的にし、平等な競争を促すこと」である。財政税制改革は現在も続いている。
第8章「対外開放」は、中国版の国際経済学を提供している。標準的な西側貿易論から選択されたのは、アダム・スミスの自由貿易論、リカードの比較優位論、20世紀のヘクシャーとオリーンによる生産要素賦存の相違が各国の貿易パタンを決定するという要素賦存理論(H-O理論)、サミュエルソンの要素価格均等化定理、レオンチェフによるH-O理論の検定問題などである。そして、ライバルのラテン・アメリカ諸国やインドを意識した開発経済論が論じられ、中国での外国企業の直接投資、中国の貿易の発展、赤松要の雁行形態論を思わせる輸入代替戦略が説明される。中国の世界貿易機関(WTO)加盟は大きなトピックであり、地域統合の枠組みとしては「ASEAN+3」や上海協力機構(SCO)などがあげられた。(つづく)
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