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2021-10-29 00:00
中国、モラルハザードで信用崩壊の可能性
大井 幸子
国際金融アナリスト
中国不動産バブルが崩壊に向かうという報道が相次いでいます。恒大集団、ファンタジアなど大手不動産デベロッパーがデフォルトの危機にあります。今後の注目は山積みとなる不良債権の処理です。中国ではすでに国営の不良債権の受け皿会社、華融資産管理(華融)があります。これは米国のRTC(Resolution Trust Corporation: 整理信託公社) の中国版で、不良債権を回収し、証券化の手法を用いて流動化し、金融システムを安定化させる役割を担います。米国RTCは1989年に設立され、当時危機的な状況にあった貯蓄貸付組合の不良資産を買い取り、整理することで小口預金者を救済しました。RTCの回収した不良債権の山は、投資銀行が安値で引き受け、証券化し、いくつものトランチに切り分けて資産担保債券(Asset backed Securities: ABS)として売りさばきました。FRBが金利を引き下げ、債券発行には有利な環境でした。そして、1990-91年の湾岸戦争を経て米国の景気が持ち直してくると、担保価値も回復し、RTCはその役目を果たしました。
私自身、1989年に格付け会社大手ムーディーズのニューヨーク本社でアナリストとして証券化商品の格付けをした経験がありますし、その後リーマンブラザーズ債券部にてRTC証券化商品の営業に関わりました。そうした経験も踏まえて、中国の不良債権処理を考えると、その行く末が危ぶまれます。何せ華融自体が、2020年に6兆5千億円相当の不良債権を抱え、その無秩序な経営が公になりました。当時の頼会長は290億円もの収賄罪などで今年1月に死刑になっています。不良債権処理を行うはずの主体が不良債権化したのです。さらに、中国政府は華融を「大きすぎて潰せない」と判断したため、同じように破綻寸前の恒大集団をはじめとする大手も政府が何らかの保証をつけて潰さないだろうという期待を市場参加者に持たせてしまい、投資家の中にはナンピン買いに走る輩もいます。中国政府が、華融や恒大集団をゾンビのように生き延びさせると、金融市場では「モラルハザード」が続き、詐欺、贈賄、汚職等のデタラメが横行し、やがて金融システムが「信用崩壊」を起こします。中途半端なソフトランディングは困難です。
それでは、ハードランディングさせるとどうなるか?米国の連邦破産法の手続きのように、不良債権が開示され、優先順位の高い債権者から秩序だって支払われていく厳格なルールが中国にもあるかと思いますが、中国の裁判所が果たして米国と同じように、「法の支配」に基づいて、処理できるのでしょうか?「モラルハザード」の横行と浸透の深刻さを考えると、これも無理があります。日本はどうだったか?日本もまた、中国と同様、加熱した投機的な不動産投資を取り締まるために「総量規制」が敷かれ、政府は一気にバブルを潰しにかかりました。しかし、バブル破綻後は、政府の政策が後手に回り、ゾンビ銀行を延命させたため、1997年には北海道拓殖銀行がデフォルトし、翌年には長期信用銀行が破綻するなど、大変な金融危機に見舞われました。政府は、バブル崩壊後から10年近く経った1999年に、ようやく日本版RTC(整理回収機構: RCC)を立ち上げましたが、それほど不良債権処理は遅れたのです。
中国の不動産バブル破綻処理は、日本の比ではない、前代未聞の規模になり、また時間もかかると予想されます。バブル破綻後の日本の失われた30年を考えると、中国では何年失われるのか?あるいは、共産党は金融市場の信用を崩壊させ、資本主義/市場経済を根こそぎにするつもりなのか?仮に信用崩壊すると、再構築までには長い時間がかかると予想されます。
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