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2021-10-19 00:00
現代中国の盲点七論:『習近平政権下の「共同富裕」とは何か』再論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
中国共産党は10月18日、習近平総書記の主宰で政治局全体会議を開き、第19期中央委員会第6回総会(第19期6中総会、中国語では「第十九届六中全会」で以下「6中総会」と記述)を、11月8日~11日に北京で開催することを決定した。さらに、今回の政治局会議は「党の百年奮闘した重大成果と歴史的経験に関する中国共産党中央の決議」稿を党内外一定の範囲で意見聴取した状況報告を聴取し、同会議で討論した意見に基づいて修正を行った後で「決議」稿を6中総会の審議にかけることを決定したという。1年毎に開かれる党中央委員会総会である6中総会の開催については、既に9月末に開かれた政治局全体会議で時期は11月とされ、7月の共産党創設100周年を受けた「党の百年奮闘成果と歴史的経験」の研究が議題とされており目新しいものはない。しかし、以下述べるように特異な動向もみられた。
先ず前回の拙稿(9月22日付)で取り上げた「共同富裕」の内容について、習近平総書記が8月17日に行った演説の一部が政治局会議開催直前の16日、理論誌「求是」で「重要文章」として公開された。これを解説する新華社記事は「13416」という数字を挙げて「習近平の大配置」とした。すなわち「1」とは「重要概念」であり「皆が共に豊かになることは社会主義の本質的な要求であり、中国式現代化の重要な特徴である」。次に「3」とは「3つの段階」、すなわち①2025年までは共同富裕のために堅実な歩みを行い、②2035年までは実質的な進展を図り、③21世紀中葉までには中国人民全体の共同富裕を基本的に実現するというものである。その過程における「4」とは原則であり①勤労刷新を奨励して富裕を目指す、②基本的な経済制度を堅持する、③全力を尽くしつつ力相応に行う、④順を追って着実に行うことを堅持する。そして、ここで再び「1」とは「まとめ」となり「全体的な考え」として「人民を中心とする発展思想を堅持し、高度な質的発展の中で共同富裕を促進する」、その具体的な「6」施策が①発展におけるバランス・協調・包容の向上、②中間層(中国語「中等収入群体」)規模拡大への注力、③基本的な公共サービス均等化の促進、④人民の精神生活における共同富裕促進、⑥農民・農村の共同富裕促進である。習近平の主張する「共同富裕」とは何か解ったであろうか。浅学菲才の小生には、理解よりも疑問が増えた感じがする。しかも、これが「重要文章」でありながら全文の公開ではなく、一部の公開に止まっているのも不可解だ。先月の拙稿で述べたように、共同富裕について「習近平政権が、何ら『統一解釈』を出さないため、経済界、教育界など多くの現場の担当者の恣意的な解釈に基づく施策が野放図に行われている」現状を、依然として放置したままなのである。では、代わりに習近平政権はいかなる施策をとっているのだろうか。
例えば9月末、唐突に開かれた中央「人材」工作会議である。初開催の会議であったが、過去2回これに似通った会議が開かれている。それらは「全国人材工作会議」(2003年、2010年)であり、11年振りに開かれた「人材」関連会議であった。習近平は「新時代の人材強国戦略」を実施し「世界における重要人材・イノベーションセンター建設を加速する」と呼び掛けたが、そもそも「中央人材工作指導小組」の存在は初確認であり、国務院隷下の人力資源・社会保障部の積極的な関与もみられなかった。また、10月13日~14日に初めて開かれた中央「人大」工作会議も奇異な会議であった。そもそも「人大」(中国語)とは何か、「人民代表大会」制度のことである。日本では例えば、春季に開かれる中国の「全国人民代表大会」が「全人代」と表記されるが、中国では「全人大」となる。要は日本が「全国・人民・代表大会」と認識しているが、それは「全国・人民代表・大会」のことなのだ。「人民が政治の当事者である」という原則に基づいた中国の政治制度「人民代表大会」を称賛する会議がなぜ今、この時期に開かれたのか小生には分からない。しかし、最近の「人材強国」や「人民代表」の強調は、中国が従来採択してきた「物」や「金」に傾斜した量的な政策を転換し、「人」を重視した質的な政策へ重点を移していくというイメージ醸成には役立つかもしれない。ただし、問題は11月に開催される6中総会で討議される前記の「決議」稿であろう。果たして党内外の議論は十分に尽くされたのか、まだ議論が足らず採択は来年の7中総会までずれ込む可能性もある。逆に、曖昧模糊とした今回の習近平論文を引き写したような、不十分な内容の「決議」が6中総会で採択されれば党・政府・軍・社会の現場の混乱は続くであろう。
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