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2021-10-06 00:00
気象モデルと経済モデル
池尾 愛子
早稲田大学教授
真鍋淑郎氏が本年のノーベル物理学賞の一人に選ばれた。真鍋氏はダニエル・ヤーギンのエネルギー書『探求』(2011年)に登場して絶賛されているので、大きな興味を持っていた。同書では化石エネルギーの使用を減らすことが気候変動対策につながることが意識されている。同書を読む限り、真鍋氏は1960年代後半、利用可能なコンピュータの性能、利用可能なデータとその質を理解して、モデルを作成し、二酸化炭素濃度の高まりが気温上昇をもっともよく説明することを発見されたのであった。
専門家の間では真鍋氏の研究とそのテクニカル・スキルはよく知られていて、プリンストン大学にスカウトされたのであった。私は不思議な気持ちで真鍋氏の気象モデルに関する業績を見ていた。ヤーギンの書では、真鍋氏のモデルの(相対的)シンプルさが強調されている。
当時の計量経済モデルの目立った動きはというと、大型計量経済モデルの構築が目指されており、その逆方向に邁進したいような雰囲気があった。マクロ経済の管理が可能だとの考えがあって、そのためにマクロ計量モデルや産業連関表が役立つと考えられていたのである。もちろんぐっと簡素な計量経済モデルも作成されて、限定された経済予測に利用されるなど成果をあげていた。とはいえ1970年代前半に、経済主体の合理的期待形成を強調する研究者たちが現れ、事態を逆転させるような変化が発生するのであるが、気象モデルの作成動向も経済学にいくらか影響したのであろうか。
もちろん日本でもよく知られているローマクラブ・レポート『成長の限界』(1972年)でも、コンピュータを駆使した「世界モデル」とその利用が基礎に置かれているとされ、かなり複雑なメッセージが引き出されている。その点では、真鍋氏のアプローチと彼のモデルから引き出されたシンプルなメッセージとは、どちらかといえば逆方向を向いていたように感じられる。ローマクラブ・レポート作成者たちは複雑な世界モデルの作成にこだわってゆくが、二酸化炭素濃度の高まりと地球温暖化の問題にも注目してゆくことになる。真鍋氏はシンプルな帰結だけではなく、データを利用するモデル分析そのものにも方法論上大きく貢献したといえるのではないかと感じているのであるが、いかがであろうか。
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