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2021-10-01 00:00
(連載2)豪が原潜導入、日本も検討すべきだ
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
米国が原潜の技術を他国に移転するのは、1958年に英国に移転して以来63年ぶりである。背景としては、地政学的に海洋国家である豪州による中国牽制の意思と能力を高く評価しており、また長期にわたり強固な信頼関係を築いてきたことによる。ちなみに、韓国政府は昨年9月米国に対し原潜の建造に必要な核燃料の提供を求めたが拒否されている(9月17日付け「朝鮮日報」参照)。かねてより、米中対立から距離を置く韓国の文政権は、「核の傘」を含め、安全保障を米国に依存しない「自主国防」政策を進め、軽空母や原潜の導入を目指している。9月15日には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に成功している。これは米ロ中英仏印に次ぐ世界で7番目の実績である。北朝鮮も当然原潜の導入を目指しているであろう。
原子力潜水艦は、数か月に及ぶ長距離潜航が可能である。原子力により海水を蒸発させて真水を作り、海水を電気分解して酸素も作れるから、艦内の喚気の必要がない。水と電力の残量を気にせず使用できるから、乗組員は快適な環境で長期間生活できる。これに対して、動力としてのディーゼルエンジンとその動力を補佐する蓄電池(バッテリー)を積んでいるディーゼル型潜水艦では、定期的に艦内を換気し、蓄電池を充電する必要があるため、約2週間に一度海面に浮上する必要があり、敵に発見され攻撃を受ける危険性がある。さらに、ディーゼル型に比べ、原潜は高速で機動力があるうえに、船体も大きいから対艦ミサイルや魚雷を多く搭載でき攻撃能力に優れている。したがって、潜水艦としての性能は、ディーゼル型潜水艦よりも明らかに多くの面で原子力潜水艦が優れているのである。
前記の通り、日本はディーゼル型潜水艦を21隻保有しているが、原子力潜水艦は皆無である。ディーゼル型潜水艦は、前記の通り、原潜に比べて劣る点が多い。したがって、今後も予想される、中国による力による現状変更の試みや、南シナ海の「内海化」、台湾侵攻、尖閣諸島奪取を含む東シナ海、西太平洋への一層の覇権主義的な海洋進出などを考えれば、中国の軍事力との差を縮めるために優れた原子力潜水艦を導入することで防衛力に多様性を持たせることはなんら問題とはならないのではないか。
日本の原潜導入は、中国からの非難はもちろんのこと国内からの激しい反発も予想される。しかしながら、石破茂元防衛大臣も2008年原潜の導入を論文で主張しているし、自民党総裁選立候補であった河野太郎、高市早苗両氏も原潜保有の検討に賛成する旨発言した(9月26日付けフジテレビ系「日曜報道ザ・プライム」4氏討論会)。また、最高裁砂川事件大法廷判決は、「憲法9条は侵略戦争を放棄したものであり、わが国固有の自衛権及び自衛のための措置は何ら否定してない。」(最大判昭34・12・16刑集13・13・3225参照)と明確に判示しており、憲法9条には違反しない。つまり、政治的にも法的にも充分に取得できる環境があるのである。よって、日本政府は原潜導入に向け米国政府との交渉を開始すべきである。(おわり)
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