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2007-08-06 00:00
参院選結果に関するひとつの視角
伊奈久喜
新聞記者
安倍自民党の惨敗に終わった参院選の結果には様々な分析・解説が可能であり、現になされている。ここでは今回の参院選が(1)シルバーデモクラシーの問題点(2)憲法が想定しない参院の現実――を表面化させた、との視点に立って議論したい。
まず(1)は団塊以上の世代が特に年金問題に怒ったという意味である。昨年の自民党総裁選をめぐる議論でも団塊世代以上の政治評論家はほとんどが反安倍だった。世代間闘争で団塊以上の世代は負け、今回逆襲した。その意味でかつての民主党の前原おろしと似ている。
こうしたシルバーデモクラシーは、税金を払う側でなく、税金に支えられる側の声が政治を支配する民主政治を意味する。人口がピラミッド型でない限り、みんなが望む「負担は少なく給付は多く」の年金は無理なのは疑いがない。年金問題が社保庁問題を離れて制度論に入り、与党に不利になる。民主党で自治労出身が比例の一位になった事実は、今回の選挙を左右した社保庁問題のの自治労陰謀説を補強するが、これは戯れ言である。ともあれ、もはや小さな政府は無理。大きな政府に向かう。シルバーデモクラシー論ではそうなるが。
次に(2)である。30年前、参院記者クラブにいたころ、参院の政党化は望ましくない、だから党議拘束ははずせ、との議論が参院議員のなかにすらあった。いまは参院選を政権交代の踏み台にとされている。政党化を前提とした議論は、憲法の想定を超えている。政党化しない院だからこそ、解散がないのに法案を葬り去る巨大な権限がある。憲法が想定しない矛盾を今回の選挙はさらけだした。
参院選の結果の主な理由は、上記(1)なのだろう。小泉政権の郵政選挙の大勝でふれた振り子が戻したことになる。選挙結果は「改革継続」にノーといってみせた。エコノミストのエスパー・コールは「日本はかつてのイタリアになる」と嘆く。なにしろ、民主党の公約は林業に100万を雇用するというめちゃくちゃなものだからだ。しかしマニフェストよりも、赤城問題にみる自民党の自滅、メディアの安倍バッシングの結果が今回の選挙である。
首相は第二院選挙の敗北で辞めるべきではない。宇野、橋本両首相の退陣は前例にならない。なぜなら(1)当時の与党は衆院の2/3はなかった(2)当時は宮沢喜一、小渕恵三両氏が次に待っていた(3)安倍は10カ月前に65%の得票で選ばれた――からだ。しかし安倍退陣がない限り、朝日新聞を中心とする安倍バッシングは続く。安倍首相は高杉晋作に自分を模しているようだが、確かに高杉の生涯には多くの起伏があった。が、同時に権力に淡泊なひとでもあった。安倍氏にもいずれ決断のときがくるかもしれない。
外交が票にならないのも今回での選挙で確認された点だ。朝日新聞は本来、安倍の中韓との関係改善を評価すべき立場だったはずだが、選挙では完全に忘れられた。外交が安倍自民党敗北に影響しているとすれば、日米関係のちぐはぐさだ。北朝鮮、F22・・・・。日米にすきま風を感じる。選挙の結果、集団的自衛権の見直しは無理になり、テロ特措法延長も難しくなる。すきま風は強まる。民主党政権で米側の民主党政権とやりあったら、それも面白い、と興味をもってしまう。
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