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2021-06-12 00:00
米バイデン政権の経済政策について
真田 幸光
大学教員
米国のバイデン政権は、誕生前から誕生直後には、「バイデン政権の新たな経済政策は何か」と言う点では、明確なメッセージは出ていませんでした。しかし、トランプ前大統領が、特に米国の底辺層からの支持を受け続ける中、その底辺層に配慮する形で、日本円にすれば200兆円規模となんと日本の国家予算の倍弱の財政出動を伴う景気対策をまずは実施してきました。これに対して、当初は、財政赤字の大きい中、財政を更に悪化させるポプュリズム的政策であるとの見方が強まり、また、それに伴い、米国政府の資金調達コストは上がるであろうという見通しのもとで米国の長期金利が上がるという悪い金利上昇が顕在化しました。
しかし、米中対立が深まる中、米国経済が悪化すると、「むしろ国際金融市場は悪化するのではないか」と言う懸念を背景として、バイデン政権に近いと見られるマーケットプレーヤー達は、「バイデン政権の財政出動を伴う景気対策は少なくとも短期的には米国景気を下支え、底上げする」と論理をすり替えて、「米国株の下落を阻止しつつ、米国債の堅調さを誘引、更に米ドル為替の強め安定を背景にして、結果、米国株は更に上昇トレンドにある」と言う、素晴らしいシナリオ展開を示しています。そして、国際格付け機関であるムーディーズインベスターズによると、今年第1四半期あたり全世界家計の余剰貯蓄が5兆4,000億米ドル規模と推定されました。これは、世界の国内総生産(GDP)の約6%の規模に相当します。ムーディーズインベスターズは消費者がこの余剰貯蓄の3分の1消費するだけでも世界のGDPを2ポイント引き上げることができると予想し、今後の新型コロナウイルスの収束状況によっては、米国経済を軸とした先進国の消費拡大が見られる可能性があるとの相対的には良い見方を示し始めています。
こうした中、更にバイデン政権は中国本土の影響力の拡大を想定して、米国経済の体力強化、いざとなれば、鎖国できる国作りを意識して、約1兆3,000億米ドル規模の米国のインフラ整備政策を打ち出し、運輸(道路、橋、鉄道など)、製造業(半導体サプライチェーン強化など)、研究開発(AI、バイオなど)、デジタル(高速通信網構築など)、電力(グリーンエネルギーなど)などを軸とした景気刺激策も打ち出しました。更に、その財源として、法人税の21%から28%引き上げ、海外収益に対して2倍の21%課税の実施、大企業の会計上利益に対する最低15%の課税の実施という政策まで示し、更に更に、「米国だけ法人税増税をすると米国から企業が逃避してしまい、元も子もなくなる」として、「世界全体に法人税増税を呼びかける」ことまで行っており、その政策遂行に隙がありません。
もちろん、こうした計画が野党に反対され、減額される可能性もあり、そもそも議会を通らない可能性も否定できませんが、しかし、バイデン政権の経済政策は本格的に動き始めていているのではないでしょうか。尚、日本政府も「法人税の国際最低税率」についてG7で枠組みに合意しました。こうした流れの中で、バイデン政権の税制改革案を始めとした経済政策の先行きを見ておく必要がありそうです。
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