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2021-06-05 00:00
国産ワクチンの製造を急げ
船田 元
GFJ政治家世話人/衆議院議員
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大や重症化を防ぐため、ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社など欧米製薬大手が先行して、瞬く間にワクチンの製造に踏み出した。我が国は3社からの輸入契約を必死になって行い、国内の需要に対応できるだけのワクチン量を確保できた。しかし厚労省の承認までの時間がかかった上、接種の段取りに手間取り、残念ながらそのスピードは先進国の中では下位に甘んじている。総合安全保障の観点からは、今後も新型コロナのようなウイルスによるパンデミックが今後も起こりうるとの見解もあり、いざという時に海外のワクチンに頼るのではなく、出来るだけ早く国産ワクチンを製造すべきであるとの意見が強まっている。
我が国は医療、生化学、バイオテクの分野では欧米に遜色のないレベルを保っているのだが、なぜ今回のパンデミックに対応できなかったのか。まずは研究資金が限られていることや、役立つかどうか明らかでない研究開発に大きな研究費を注ぎ込むことには、官民とも否定的な態度を続けてきたからだ。普段から創薬研究の高いレベルを維持し続けること、すなわち高いアイドリング状態を続けていなければ、ロケット・スタートはできないのである。次に厚労省や製薬企業が過去に受けた薬害訴訟を恐れて、ワクチンや新薬開発に消極的になっていることが挙げられる。薬害は絶対に起こしてはならないが、一方で消極的過ぎるのも問題である。国が安定した補償制度を構築すべきである。また国民の皆保険制度や生命倫理観の影響で、治験の態勢がなかなか整わないのも一因だろう。
私は20数年前に米メリーランド州ベセスダにあるNIHのクリニカルセンター(臨床センター)を視察したことがあるが、そこではラボ(研究室)の隣の部屋に、治験を待つ患者が入院していた。研究と実用化が背中合わせに存在することは羨ましい限りだが、文化や価値観、倫理観の違いをまざまざと見せつけられた感があった。この度のファイザー製とモデルナ製のワクチンは、mRNA(メッセンジャー RNA)を応用したものだが、この研究開発にはハンガリー出身の科学者カタリン・カリコ女史が深く関わったとされる。多分この秋のノーベル賞を必ず取るに違いない。しかし彼女の研究はかつては脚光を浴びることは少なかった。光が当たったのは、京都大学の山中伸弥教授が作ったiPS細胞を効率的に生産するのに、このmRNAの手法が役立つことが分かったからだ。
直ぐに役立つかどうか分からないが、予期せぬ結びつきが生まれる為には、地道で多様な「基礎研究」が存在していることが重要である。存在していなければ、今回のような短期間の開発は出来なかったとも言える。翻って我が国は、官民の研究費が共に限られ、故に役立つ可能性が高い研究に限定、集約される傾向が強い。そのため基礎研究の厚みがどんどん薄くなっている。ワクチン開発に限らず、我が国はイノベーションの苗床=基礎研究を常に一定のレベルです保つことが望まれる。
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