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2021-06-04 00:00
コロナ禍で問われる日本医師会の品位
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「パーティーで 自粛を叫ぶ お医者さん」(千葉県 姫野泰之(5月13日朝日川柳)。日本医師会の中川俊男会長は、4月20日、自身が後援会長を務める自民党の自見英子参院議員の政治資金パーティーに出席していた。会場となったホテルは東京都内にあり、当時、都は千葉・埼玉・神奈川各県とともに「まん延防止等重点措置」が適用されていた。この「事実」を報じる新聞によれば「後援会長として行かざるを得なかった。ご心配をおかけした」と話したという(2021/05/12東京新聞)。コロナ禍にあって常日頃医療崩壊からの組織防衛のために、民衆に向かって慎重な行動を取るようさかんに訴えていた同氏が、あろうことか最悪のタイミングで大勢集まった式場で会食したというのだ。この記事に添付された写真から察するに、厳に秘匿しておきたかった「不都合な真実」が「文春砲」の一撃に被弾して万人の知るところとなってしまったことを「謝罪」する目的で会見を開いたものであるらしい。それにしては、「ご心配をおかけした」とは、この人は何を言いたいのであろうか?
いつの頃からか、社会的な指導層に属する者たちが、犯してはならない不祥事のたびに当人が「ご心配をおかけした」とか、「ご心配をおかけしたとすれば」とか接頭辞を付けてする「謝罪?」発言が実に耳障りである。筆者の天邪鬼の虫が脳中を騒がして「お前のことなどどうなろうとも全然心配などしていない。さっさと謝るのか謝らないのかどっちだ」と騒ぎだすのである。
この当事者中川氏は、日医という民間ギルド=職能団体の長であって、コロナパンデミックという未曽有の歴史的事件の渦中にあって、そのベクトルは罹患者の大群が民間医療機関を直撃する方に向いていて、これによって生じる医療崩壊という組織破壊をどう食い止めるかという重要な役割を全会員から期待されている。それゆえにこそ様々な政策提言を中央・地方政府に出し、同時に全国の会員に対して情報を提供し、迎撃態勢を指導することが役割であったろう。そういう中で、同団体のクライアントになるはずの全国民に対して犯すべからざる「的確な」注意勧告を発してきたのでもあったのである。その勧告の中には「不要不急の会合や遊興のための外出などは慎めとか、まして大宴会など断じてやってはならぬ」などという強い要求も入っていたのである。その国民への要求を自らは除外して、いわば準主催者としてパーティーに参加していたというのが上記新聞記事である。
それにしても、多くの先進国に比べて人口当たり発症者数が比較的少ない日本においていとも簡単に医療組織が崩壊または崩壊寸前に達している脆弱さ、日頃、医療先進国を自認し国民もそう信じてきた民間医療組織の弱さこそが、武見太郎にシンボルライズされつつ、戦後一貫して保守政治の中枢に食い込んでもきた日医の実力であったかと今更のように国民は不安をかこっているのである。中川氏が言うように「心配」があるとすれば、この脆弱性こそが国民のいま第一番の不安である。一体、日本の医療は実のところ誰に向かってサービスされていたのだろうか?
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