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2021-06-03 00:00
(連載2)拿捕事案から考える「領海3カイリ」の議論
緒方 林太郎
元衆議院議員
では、この知識をベースに宗谷海峡での拿捕を考えてみたいと思います。(そのような事では無いと信じていますが)仮に日本漁船がロシア領海内で違法操業をしていたとします。当然、ロシアの国境警備局は、ロシアの国内法に基づき、その日本漁船を取締り、追跡する権限があります。漁船が公海に出ても追跡を継続する事は可能です。
【国連海洋法条約】
第百十一条 追跡権
1 沿岸国の権限のある当局は、外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があるときは、当該外国船舶の追跡を行うことができる。この追跡は、外国船舶又はそのボートが追跡国の内水、群島水域、領海又は接続水域にある時に開始しなければならず、また、中断されない限り、領海又は接続水域の外において引き続き行うことができる。(略)
ただし、その漁船が日本の領海に入ったら、ロシアの国境警備隊はそれ以上の追跡は出来ません。
【国連海洋法条約】
第百十一条 追跡権
(略)
3 追跡権は、被追跡船舶がその旗国又は第三国の領海に入ると同時に消滅する。
(略)
つまり、仮に宗谷海峡のロシア領側で違法操業があったとする場合、ロシア領海(③)で追跡が始まって、日本漁船がロシア領海から出ても、まずは公海(②)ですからロシアの国境警備隊の追跡は続きます。日本領海(①)に入ってようやく(法的には)追跡不可になります。上記の通り、ロシア領海を出て最短でも15kmは追跡をかわす必要があります。しかし、上記で述べた通り、②の海域は日本がフルマックスで領海を主張すればすべて日本の領海になる場所です。そうすれば、日本漁船がロシア領海を出れば、すぐに日本領海に入るので(法的には)ロシアの国境警備隊は追跡を継続出来ません。
私は現職時代、何度もこの件を取り上げました。外務省から担当室長が「是非議論したい」という事で訪ねて来た事もあります。私はこの件の背景として「5海峡における核搭載艦の通過」を円滑ならしめる事があるのは知っています(今は核搭載艦の領海内通過は核の持ち込みに当たるとの解釈のため公海部分を開けている)。私から「5海峡内で中国軍艦が停泊したらどうする?また、宗谷海峡の領海主張は非対称的となっている。これをおかしいとは思わないか(ましてや今回の拿捕事案のように邦人保護に差し支えかねない)。それだけの犠牲を払っても、まだ領海の主張を3カイリとする事の方が、国益が高いと思うか?」と問いかけました。回答の詳細は控えますが、結論から言うと「今の仕組みの方が国益に資する」との事でした。先日、友人の大西健介議員が小此木領土・領海担当相に本件で質問した際も「見直しは一切考えていない」との趣旨の答弁でした。これは1977年に領海法を作った時に設けられた仕組みです。当時、外務省幹部の中にすら「おかしな事やっているな」と思った方はおられました。上記の領海及び接続水域に関する法律の附則にもある通り、この5海峡のみ領海3カイリの規定は「当分の間」のものです。つまり、何処か歪な所があるため永続的措置としては考えていなかったのです。ただ、45年の歩みの中で、現行制度を前提とした仕組みが進化してきたため、もう手を付けにくくなっているという事です。
今回の宗谷海峡での拿捕事案は、現在の制度の歪さを若干露呈していると思います。今の制度が日本人を守るツールを少し手放している事に繋がっているわけです。制度の惰性にとらわれることなく、この制度のプラス・マイナスを考えていくべきだと思います。(おわり)
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