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2021-05-25 00:00
(連載2)五輪中止を唱えない新聞の商業ジャーナリズム
中村 仁
元全国紙記者
NYタイムズ紙は「日本のワクチン接種は滞っている。五輪を開催する最悪のタイミングだ」、WP紙は「バッハ会長はぼったくり男爵で、開催国を食い物にする悪癖がある」と、容赦のない指摘です。「大会開催を前進させている要因は『金』だ。収益のほとんどを自分たちのものにしている。日本はすでに当初費用を上回る2・7兆円をつぎ込んだ」ともWP紙は批判しています。
日本側はどうでしょうか。開催国なのに歯がゆい限りです。欧米紙の中止論に先行されてから、にわかに騒ぎ始めています。産経社説は「中止ありきの議論が先走りするのは本末転倒だ。感染状況を可能な限り抑えるなど、先にやるべきことがある」(5/1日)と、菅政権擁護が目的らしい主張です。読売は「ウイルルスの感染再拡大を食い止め、開催をより確実なものにしたい。中止や延期を求める声は根強い。感染対策をさらに強化してほしい」(3/23日)と、開催待望論が前提になっています。朝日は「開催を強行したら国内外にさらなる災禍をもたらすことになる。変異株の流行という脅威もある」(4/23日)と、批判はします。さらに一歩踏み込んで「開催を中止せよ」とは主張しない。毎日は「混迷する五輪の準備、危機への対応が足りない。観客制限の具体策を6月に先送りした」(5/1日)とまで書いても、中止要求をやはり明確にしない。混迷しているのは日本の新聞論調です。
安倍政権当時に五輪誘致にこぎつけ、メディアは「開催盛り上げ報道」に熱心でした。「五輪は最大の祭典、最大のイベント」という固定観念から抜け出せない五輪ジャーナリズムには失望します。日本のメディアは、政権の開催スローガンにひっかき回されてきました。リオ五輪閉会式での「安倍マリオ」の登場は漫画でした。スローガンの「震災復興五輪」は無責任な思い付きで、破綻しました。菅政権になってからも「人類がコロナに勝った証」、「世界団結の象徴」と、開催理念がころころ変わました。最近、小池百合子都知事も「新しいトライアル。新しい五輪のモデルに」と、言い出す始末です。「それって何なの」です。当事者に開催理念がなく、政治利用が大きな目的なのです。
非常事態宣言は3度目で、政府は「17日間の短期決戦」と明言していました。それが月末までの延長となりました。3度、4度の経験を通じて、コロナウイルスの収束は予想できないことははっきりしました。菅首相は「いつか事態が改善に向かうだろう」と、祈るような気持ちでしょう。その「いつか」には期待をかけられない。メディアはバッハ氏、菅氏にそう言ってあげるべきなのです。(おわり)
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