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2021-04-13 00:00
(連載1)日本における航行の自由作戦
緒方 林太郎
元衆議院議員
アメリカが対馬海峡で「航行の自由作戦」を実施した、日本の領海設定を問題視という報道がありました。現時点ではほぼすべての報道+有識者コメントには誤解がありますので解説しておきます。まず、海洋法の基礎からスタートします。海には公海があります。ここは原則自由な海域です。そして、各国の基線(領海等を引く基となる線)から12カイリ以内の海域が領海です。ここには国際法に基づいて沿岸国の主権が及びます。そして、基線の内側に「内水」があります。分かりやすいのは湾とか内海でして、これは領海よりも内側にある海域になります。内水は一部を除いて国際法が適用されません。基本的には沿岸国の自由です。
そして、この基線の引き方、つまりは内水の決め方が今回の問題になっているのです。私の目には領海設定の問題ではなく、内水設定の問題だと映っています(領海は基線から12カイリと決まっていますので、その設定に問題が生じるはずが無いのです)。国連海洋法条約には、基線の引き方として「直線基線」というルールが設けられています。これは何かと言うと、海岸が著しく曲折しているか、海岸に沿って至近距離に一連の島がある場所においては、ゴチャゴチャするのでなくグイーンと直線で基線を引いて、そこから領海の計算をしてもいいよとなっている事を指します。これだと何の事か分からないので、
海上保安庁のサイトの「直線基線とは」
を見ていただくと分かります。このページで濃い青と普通の青の境目に引かれている赤線が直線基線です。そして、濃い青の部分は領海ですらなく内水です。(日本は平成8年にこの直線基線を決めています。国連海洋法条約では、こういう後になって引いた直線基線の内側にある内水での自由な航行は認めるようになっています。内水に国際法のルールが掛かっている数少ない部分です。)
アメリカが言っているのは「直線基線が膨らみ過ぎだろ?」という事です。それは「内水を取り過ぎだろ?」という事を意味します。これは突然言い始めた話ではありません。冷戦時代からアメリカは自由に航行できる海域を出来るだけ広く取る事を基本政策としています(当時、ソ連とこの点では一致していた)。なので、国際的なルールが殆ど掛からない内水の範囲が広がる事については、世界中何処であっても厳しい視線を注ぎます。このアメリカの基本姿勢(出来るだけ自由な海域を広く取る)は日本に苦しい所があり、例えば中国の艦船がトカラ海峡を通航する際、中国は「ここは(自由度高く航行出来る)国際海峡だ。」と主張し、日本は「ここは国際海峡では無いので、日本のルールに従え。」と主張しています。多分、このケースではアメリカは日本の味方はしてくれないでしょう。
アメリカの「航行の自由作戦」と言うと、南沙諸島の環礁で基地を作る中国を牽制するためのものだと思っている方が多いです。勿論、それは重要な要素なのですが、同作戦の全体像はそれだけではありません。自由な海域を多く確保するのが基本目標であり、そこから見ると、日本の直線基線が膨らんでいる事も、中国の南沙諸島での策動も厳しく対応するという事です。(つづく)
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