国際社会はジョセフ・バイデン大統領がアメリカをドナルド・トランプ氏のアメリカ・ファーストからどれほど脱却させられるかを注視している。今年の2月には外交政策に関する初の演説を4日に国務省、続いて19日にミュンヘン安全保障会議で行なった。学者や評論家達は演説内容の一言一句を検討しながら彼の外交政策の見通しを立てようとしている。そうした中で、バイデン氏の発言と行動を総合的な観点から比較する必要がある。
まずバイデン氏の演説を見てみたい。国務省での演説では、バイデン氏は一貫してロシア、中国、そして中東での反政府勢力および民族的マイノリティーの人権を擁護している。また、環境問題をはじめとする生活の質に関わるグローバルな問題も重要になっている。そうした中で中国に関しては、バイデン氏はアメリカ理想主義の道徳的な優位とリアリズムの地経学のバランスをとっている。ロシアに対しては事情が異なり、特にこの国がブレグジットやトランプ氏の当選支援をはじめ、ヨーロッパとアメリカで行なった数々の選挙介入は問題視されている。国家情報会議が最近刊行した報告書によると、ロシアは2020年の大統領選挙でもハッキングや選挙運動陣営との人脈を通じ、トランプ氏を当選させようと選挙介入をしてきた。中国もそうした選挙介入を通じたトランプ陣営への中傷キャンペーンを考慮していたが、最終的にはそうした行為を控えたということだ。そのように選挙介入の脅威が非常に大きくなった事態に鑑みて、イギリスは長年に渡る核戦略を転換して核弾頭数を増強し、敵のサイバー攻撃に非対称的な報復を行なう方針を決定したほどである。
続くミュンヘン安全保障会議では、バイデン氏はアメリカがNATOの第5条を尊重し、域内とグローバルな安全保障での相互協力を進め、中国、インド太平洋の航行、そしてコロナ禍といった新たな課題にも取り組んでゆくと強調した。ヨーロッパ諸国はトランプ時代の孤立主義からの脱却の意向を歓迎しているが、ドイツとフランスのように緊密な対米関係よりも自国の戦略的自立性による環大西洋多国間主義を追求する動きもある。そうした中でアジアでは、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が述べるように「習近平政権下の中国は地域安全保障と貿易において自己主張が過剰になっているが、アメリカとしても経済や環境問題での相互依存もあって、この国との関係を断ち切るわけにもゆかない。よってアメリカにとっては日本との強固な同盟関係がこれまで以上に重要になってくる」ということである。それが如実に示されたのが、先日の東京での日米2プラス2会談である。
外交問題評議会のリチャード・ハース会長によると、バイデン氏の外交政策の中核を成すものは「国内の再建、同盟国との協調、外交交渉の積極活用、国際機関への参加、民主主義の普及」である。しかしトランプ氏が残した国内のトラブルには1月6日の暴動をもたらした政治的分裂と人種差別ばかりかコロナ対策の失敗も重なり、そうした事柄がバイデン氏の外交政策の足を引っ張っているという。そうした問題の中でも「アメリカの対外関与に最も重大な制約となっているものは国内の有権者の意識である」とブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏は『フォーリン・アフェアーズ』誌の本年3・4月号述べている。(つづく)