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2021-02-20 00:00
対中国海警法には近隣諸国との協力が不可欠
倉西 雅子
政治学者
先日、中国は、海洋警察の組織、即ち、中国海警局に対し、外国公船に対する武器の使用や強制検査を認める海警法を制定し、今月一日から施行しています。軍隊と警察の関係は、物理的強制力を有する点で共通してはいますが、後者は、国民保護を含む治安の維持を主要たる任務とする統治機関の一つであり、いわば国内向けの組織です。一方、対外的な脅威から自国を護り、国際社会の治安をも維持する役割は前者が担いますので、両者の間では適切な役割分担が為されているのです。日本国でも、自衛隊発足後にあって、両者は完全に分離されています。ところが、中国では、軍隊と警察のみならず、あらゆる統治の諸機関の役割分担が曖昧という特徴が見受けられます。かの天安門事件にあっても、日本であればデモには警視庁が矢面に立つところですが、人民に銃口を向けたのは人民解放軍でした。ところが、奇妙なことに、海警法では、海上保安組織に軍事的な権限を与えるという形式をとり、敢えて表面上は両者の分離を保っているのです。
以上に述べた中国の国家戦略を考慮しますと、今般の海警法施行の目的が海洋覇権の拡張政策の一環であることは疑いようもないのですが、それでは、何故、今般、中国は、内実において一体化していながら、表面上は軍隊と警察を分けたのでしょうか。もしかしますと、それは、真正面からの戦争を巧みに回避しつつ、自らの領域を拡大させるための巧妙な策略であったのではないかと思うのです。国際社会にあって中国は、これまでにも‘先進国’の看板と‘途上国’の看板を、自らの都合によって使い分けるという狡猾な作戦を採ってきました。今般の海警法にあっても、警察権力の行使として軍事力を行使する口実を得るために、意図的に両者を分けたとも推測されます。
例えば、尖閣諸島について見てみますと、日米安保条約の第5条には‘日本国の施政の下にある領域’を同条約の発動対象としています。この条文からしますと、艦船化した中国海警局の公船が尖閣諸島周辺海域にあって‘保安活動’を開始した場合、事実上、海上封鎖的な効果が生じ、日本国の施政権が及ばなくなる可能性があります。また、官民を問わず、中国の領域内で施設等を設置したり、漁業や資源開発を含む活動を行う者を取り締まるとする規定も、日本国の施政権の排除を狙っているとしか考えようがないのです。
海警法制定の中国の目的が、領有をめぐる争いがある地域における武力による威嚇による施政権の排除であるとしますと、日本国政府、並びに、他の危機に瀕している諸国の政府は、威嚇に屈することなく、先ずもって自国の施政権を護り抜かねばならないこととなりましょう。その際、中国の基本戦略がサラミ作戦であればこそ、同国に対する危機感を共有する諸国は司法的手段や抑止力の強化を含めたあらゆる対抗手段を協議し、団結して中国の脅威に立ち向かうべきではないでしょうか。アメリカのバイデン政権は新中政権との見方があり、不安なところですが、自由主義諸国が中国に対して‘戦わずして勝つ’ためには、徹底した経済制裁による‘経済封鎖’を実施する必要もあるのではないかと思うのです。
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