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2021-01-24 00:00
中国「海警法」採択の陰に隠れた事象を考える
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1月22日、中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、昨年11月に草案が公開されていた「中華人民共和国海警法」(以下、海警法と略)を審議、採択した。条文等への意見聴取を目的にした草案の公開直後から「国の主権、主権権利及び管轄権が不法に侵害されるという緊迫した危険に直面した場合」の武器使用権容認(当初19条、採択条文は22条規定)が問題とされ、沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で航行する日本の巡視船や漁船が対象となる可能性が指摘されてきた。しかし、小生は①海警法の逐条解説を行って、その効果を喧伝することは中国の目論む「法律戦」に巻き込まれる、②対象国は日本だけでなく、周辺の韓国、北朝鮮、ベトナム等も含まれる、③英語名「China Coast Guard」に示されるように、「海警」(海上警察)とは中国版「沿岸監視隊」であり海上保安機関にすぎないこと等から何故、同法の中身に対して一部論者がヒートアップするのか懐疑的であり、採択後も思いは変わらない。他方、小生が問題とするのは、法律採択の陰に隠れた中国の要人動向、習近平中国共産党総書記による2022年2月に予定される北京冬季オリンピック・パラリンピックの競技施設視察である。以下細部みていこう。
1月18日から19日にかけて習総書記は北京市内の首都体育館(スケートリンク)、同郊外のスキー場・ボブスレー競技場、及び河北省張家口市のジャンプ競技場などを相次いで視察した。随行者は蔡奇北京市党委員会書記(政治局委員)、陳吉寧北京市長(同党委員会副書記)、王東峰河北省党委員会書記、及び丁薛祥党中央弁公庁主任(政治局委員)であった。さらに、帰京した習総書記は20日、人民大会堂で北京冬季オリンピック・パラリンピック準備活動報告会を主宰し、蔡奇、王東峰両書記及び体育総局長、中国身障者連合会主席の各報告を聴取し、「準備活動は責任感、使命感、緊迫感を増してかかれ」と発破をかけたのである。同報告会には現地視察に随行した丁主任に加え、今回の北京冬季五輪の責任者を務める韓正副総理(政治局常務委員)、衛生・体育部門を主管する孫春蘭副総理(政治局委員)及び何立峰国家発展改革委員会主任が出席した。これら事象で、一体何が問題になるのか。
1月10~11日付の拙稿で指摘したが、2021年に入り首都北京に隣接する河北省では、省都の石家庄市を中心に新型コロナウイルスが蔓延し始めた。中国本土の感染者数は20年末で8万7000人台であったが、1月前半の2週間で急増して8万8000人台、そしてここ数日間で8万9000人台に到達する可能性がある(23日現在)。感染範囲も東北地方の黒龍江省、吉林省に広がり、北京市や上海市でも感染者が確認されてきている。こうした中、衛生工作担当の孫副総理は、1月6~8日に続く河北省視察(15~18日)を行った。一見、今回の「発生源」河北省への指導強化にも思えるが、小生は「これは習総書記の北京冬季五輪視察活動の露払いでないか」、「現地視察に随行した王東峰河北省党委員会書記との現地調整が主眼ではなかったか」と見なしたのである。緊急事態宣言発令下にある日本に引き写して考えて欲しい。もし仮に東京五輪開催可能性を考慮するために菅首相が週末、森喜朗氏や小池百合子東京都知事らを伴って国立競技場等を視察したとしたら日本人は激高し、首相の政治生命は風前の灯火となろう。しかし、隣国の中国では、こうした「異常事態」を習総書記以下党・政府要人が演出しているのだ。特に河北省のトップである王東峰党委員会書記は、いくら許勤省長(同副書記)に防疫活動指導を任せたとはいえ、VIP接待にかこつけた「職務放棄」であり、コロナウイルス蔓延の責任も併せて将来、更迭など何らかの処分が下される可能性が高い。そして焦眉の課題が、間もなく月末の28日から始まる「春運」、すなわち2月の旧正月休暇における大規模移動への対策である。この点、習近平にも孫春蘭にも「責任感、使命感、緊迫感」が欠けていると思うのは小生だけであろうか。
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