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2021-01-16 00:00
(連載1)韓国「慰安婦」訴訟、控訴すべきだ
加藤 成一
元弁護士
韓国の元慰安婦12名が日本政府を相手取り、「被告(日本政府)に強制的に慰安婦にさせられ多大の苦痛を受けた」として損害賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は1月8日、原告側の請求を全面的に認め、日本政府に対して原告1人当たり1憶ウォン(約950万円)、総額12億ウォン(約1億4000万円)の賠償を命じる判決を言い渡した。元慰安婦らによる韓国での訴訟としては初の判決である。ソウル中央地裁では1月13日にも元慰安婦ら20名による同様の訴訟の判決が言い渡される予定であったが急遽延期された。本件判決は日本政府および日本国民にとって衝撃的だ。本件判決理由の骨子は、(1)被告の不法行為は計画的、組織的、広範囲に行われた反人道的犯罪行為として国際規範違反である(2)したがって「主権免除」(「裁判権免除」)は適用できない(3)原告は想像しがたい精神的、肉体的苦痛を受けた(4)被告から相当の謝罪や賠償を受けていない、というものである。
しかし、上記判決理由(1)については、官憲による組織的な強制連行の有無や、慰安婦の生活実態等につき、あたかも「性奴隷」であったかの如き元慰安婦らの証言を完全否定する、(A)強制連行事実の不存在、(B)朝鮮人業者による慰安婦募集新聞広告、(C)一般民間人の平均収入を遥かに超える高額な収入・貯金・家族への送金、(D)日本軍兵士との恋愛・結婚、(E)休日での客引き、(F)「朝鮮人慰安婦たちは実に明るく楽しそうだった」との元日本軍兵士の証言など、事実関係の調査に基づく多数の研究成果や異論がある。後記の通り、日本政府は「主権免除」を理由に一切の審理に欠席したから、上記判決理由(1)は主として元慰安婦らの証言に基づく事実認定であり、これを完全否定する上記の事実関係に基づく多数の研究成果を考慮していないから、事実誤認ないし少なくとも誇張された事実認定の可能性を否定できない(秦郁彦著「現代史の対決」2005年文藝春秋社、同「現代史の争点」2001年文藝春秋社、同「正論」2013年8月号、西岡力著「よくわかる慰安婦問題」2012年草思社、谷沢永一・渡部昇一共著「拝啓 韓国、中国、ロシア、アメリカ合衆国殿」1997年光文社)、相川平松(「元日本軍憲兵」)「財界にいがた」2007年6月号、小野田寛郎(「元日本軍兵士」)「正論」2005年1月号、鶴見俊輔・上坂冬子共著「対論・異色昭和史」2009年PHP研究所)。
上記判決理由(2)については、日本政府は、「他国の裁判権に国家は服さない」という国際法上の「主権免除」(「裁判権免除」)の原則に基づき、訴えの却下が相当として、訴状を受け取らず審理にも欠席した。「主権免除」は、すべての主権国家は平等で独立しているとの原則に基づき、あらゆる国の裁判所は他の国を対象とする訴訟の裁判権を持たないという19世紀以来の確定した国際慣習法であり国際法上の極めて重要な法規範である。そのため、2004年には成文法化され、国連においても「国連裁判権免除条約」が採択され、日本も署名批准した。同条約の内容は、国家の私法的行為以外の主権的行為については「主権免除」(「裁判権免除」)を明確に認めている。したがって、国家の私法的行為ではなく、本件慰安婦問題のような国家の主権的行為については「主権免除」が明確に適用されるから、上記判決理由(2)は重大且つ明確な国際法違反である。「主権免除」については、イタリア最高裁が第二次大戦中にドイツで強制労働させられたイタリア人の訴えを認め、ドイツ政府に賠償を命じた事例があるが、ドイツ政府はその後「主権免除」に関する国際法違反として国際司法裁判所に提訴し2012年に勝訴している。この勝訴には確定した国際慣習法としての「主権免除」の効力及び上記「国連裁判権免除条約」採択の影響を無視できない。過去において、国際司法裁判所が「主権免除」を否定した裁判例は見当たらない。
上記判決理由(3)については、上記判決理由(1)について述べた通り、元慰安婦らの証言に基づく事実認定であり、これを完全否定する事実関係に基づく多数の研究成果を考慮していないから、上記判決理由(3)は、事実誤認ないし少なくとも誇張された事実認定の可能性を否定できない。上記判決理由(4)については、明確且つ重大な事実誤認である。なぜなら、日韓両国には、2015年12月28日いわゆる従軍慰安婦問題について、最終的且つ不可逆的解決を確認した合意が成立しているからである。すなわち、上記合意に基づき、日本政府は同問題への旧日本軍の関与を認め、責任を痛感すると共に、安倍首相が心からのお詫びと反省の気持ちを表明し、元慰安婦支援のため、韓国政府が財団を設立し、日本政府の予算で10億円を一括拠出した。元慰安婦47名のうち35名は同財団から各自1億ウオン(約950万円)を支給されている(2021年1月9日付「韓国中央日報」)。上記10億円の余剰金は十二分に存在するから、本件訴訟の原告らも希望すれば支給を受けられたし、今も受けられるのである。原告らの受領拒否は、ひとえに、各種支援団体の過激な働きかけによるものと言う他ない。したがって、上記判決理由(4)は、上記日本政府による責任、謝罪、賠償の事実を完全に無視した重大な事実誤認であるとともに、事実上「日韓慰安婦合意」の効力を否定した国際法違反である。この点からしても、本件判決は日本政府および日本国民にとって、到底容認できないものである。(つづく)
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