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2007-07-20 00:00
参院選に思う―タルクィニウス王のローマからの追放
佐島直子
専修大学教授
紀元前(以下BC)753年4月21日に建国された「伝説上のローマ」最後の王タルクィニウス・スペルプス(倣岸王)は、市民蜂起によってBC511年に一族もろとも追放された。伝承によれば蜂起の原因は、タルクィニウスが(1)元老院に諮問してその成員を補充する形をやめ(人事の私物化)、(2)助言者達(元老院議員)を招請せずに死刑判決や財産没収を言い渡し(慣例を無視した政治手法)、(3)その蔵に巨大な穀物の蓄えを積み上げ(腐敗や汚職の蔓延)、(4)市民にはその分を超えた軍務と賦役を不当に課した(強権的な支配強化)ことであるという。
民衆の激しい「腹立ち」を示しているのは、「自分と子孫のため」にローマ市民が「一人残らず行なった」とされる「正式の誓い」である。それは「今後いかなる王たりとも決して許さない」という厳しい内容であった(モムゼン『ローマの歴史』)。その結果「共同体ローマ」には、一人の終身の統治者に替わって、毎年交代する二人の支配者(半年任期)が登場する。そして、初代皇帝アウグストゥスの登場(BC62年)まで、長く共和制を維持することとなる。もとい、帝政の栄華を経て滅亡に至る長い歴史の過程でも、「ローマ」の政体に「王権」が復することはなかった。「ローマ市民」にとって、権力とはあくまでも抵抗する余地を残すものであった。
さて、巷は「参院選」で賑々しい。「美しい国」を目指したはずの安倍政権は、(1)「仲良し官邸団」と揶揄される偏った人事のあげく、閣僚の不祥事や失言が相次ぐこととなった。加えて(2)強引な政治手法で数々の重要法案を強行採決で成立させ、あろうことか、国家公務員法改正案は委員会採決をすっ飛ばして参院本会議採決に持ち込んだ。さらに(3)迷走する年金問題では、日本人の国家への信頼を根底から覆してしまった。新聞の投書欄に、「年金が『振り込め詐欺』とは気がつかず・・・」という川柳が掲載されても、もはや誰も驚かない。結果、(4)日本社会には見えない将来への閉塞感が蔓延し、勤労者の重税感も増すばかりだ。タルクィニウスもかくや、という有様ではないか。
ローマ市民ならぬ日本国民の激しい「腹立ち」は、参院選でどのような結果を出すのだろうか?蜂起せずとも、「今後いかなる王(倣岸な施政者?)たりとも決して許さない」という厳しい意思表示ができるのだろうか?それにしても、安倍首相にとって、自らが国会運営において軽視した「参議院」の選挙で、自らの政治生命が窮地に追い込まれているというのは、実に皮肉な構図ではある。
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